歴代の発表者紹介

熊谷 直哉(北海道)

優秀賞 「地域循環型酪農」〜楽しい家族酪農生活〜

知床や流氷で有名な網走管内にある湧別町は、大雪山系に水源を持つ湧別川流域に肥沃な大地が広がる地勢を有し、観光地としても多くの人が訪れる。えんゆう農業協同組合は組合員の系統結集力が非常に強く、規模拡大を積極的に推進している。

当牧場は、大正15年に曾祖父が宮城県より入植。昭和46年に父・時男、平成9年に私が就農。平成14年には補助事業を活用してバイオガスプラントを導入。発生ガスを利用してガスボイラーの稼働で発熱。熱湯の牛舎内の給湯やパーラー室の床暖房システムへの循環利用で、灯油ボイラーと比べ年間120万円の経費が節減できている。

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耕畜連携事業は、JAを窓口に耕種農家と連携、環境調和型・循環型農業の普及・定着を目的に「南湧バイオ利用組合」を設立し「耕畜連携消化液利用モデル事業」を実施。当牧場の余剰消化液を南湧バイオ利用組合の耕種農家へ供給し、デントコーン飼料畑や自家ほ場や小麦の収穫後のほ場に散布。そのほ場で収穫された麦稈は当牧場の育成牛の敷料として廃液と交換し、年間60万円の敷料費の削減となっている。耕種農家も臭気問題が解決し資力の維持・増進、化学肥料の購入費の削減や、堆肥切り返し作業の省力化になったことが喜ばれている。当牧場も耕種農家よりデントコーン全ほ場の防除作業など機械を含めた役務の無償提供で機械投資等への抑制効果が出ている。

地域循環型農業で、当牧場では消化液の有効利用により自家ほ場の過剰施肥の回避による経費削減、また余剰消化液の販売による年50万円程度の安定収入で収益性も向上している。耕種農家では、麦稈の分解が早まり臭気も減少、化学肥料投入量が減少、1戸平均30万円ほど経費削減となっている。環境と調和した持続性の高い循環型の糞尿処理方法として地域住民に対しての環境対策、有機農畜産物として安心・安全を消費者に発信できることなども挙げられる。

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「今の経営を大事にし、万全の準備を整えてから次の投資に向かえ」という父の教えをもとに、平成13年に現フリーストール牛舎を建築。設計では、視察や情報をもとに自分で図面を引いた。日々の作業をより簡易にできるように授精適期のグループを観察しやすい場所に置いて授精後にスムーズな移動を可能にしたり、パーラーピット等の各ポイントを妻、母の身長に合わせたりした。設計には苦労したが12年後でも納得のいく牛舎である。

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育成牛は10か月齢から妊鑑までの期間を預託。家族経営では手の回りにくい部門なので、より精度の高い信頼のおける町内預託農場への委託により、現在は初産牛の平均分娩月齢24か月齢、年間乳量8,200キロを超す状況で、良い選択であったと考えている。粗飼料収穫もJAコントラクター事業で耕起・播種・収穫までの全ての作業を委託。牛と対話する時間が増え経営をより安心して行うことができている。

私の酪農の基本は、父から受け継いだ「家族酪農」。家族労働のみでのフリーストール経営では、経営規模の選択や所得率向上だけではなく、日々の作業を家族全員が同じく行えることも重要と考えている。朝夕のミーティングで発情発見などの情報を共有する家族一丸経営を行っており、その結果、体細胞を20万以下、成菌数0.1万以下を達成し、10年連続で乳質表彰を受けている。

将来の夢は、「生涯乳量の追求」「長命連産」を継続し、息子達が継承したくなる経営。「酪農家」と呼ばれるより「楽しい農家」、そして「楽しい家族」と呼ばれたい。「牛と私たち家族との対話」が、私が農業者であることのこだわり。これからも自然・家族・家畜との共同作業から生まれる恵みを得て経営を継続できることに日々感謝していきたい。

※発表内容から抜粋しています。