歴代の発表者紹介

鹿沼 のぞみ(群馬県)

優秀賞 家族4人による乳肉複合経営の確立

伊勢崎市は関東平野の北西部に位置し、利根川を隔て埼玉県と隣接している。1月の最低気温はマイナス6.2℃、8月の最高気温は39.1℃の内陸性気候で寒暖の差が大きい。冬には赤城山から「赤城おろし」というからっ風が吹き荒れることも特徴。

幼少の頃から生き物に関わる仕事に就きたいと考え、高校の夏休みなどに酪農家や浅間牧場などで研修、畜産の経験を積んだ。農林大学校から、赤城高原牧場に就職し、様々な動物の管理を担当。結婚後、当牧場での就農を機に、乳牛・和牛の管理に本格的に取り組み始めた。酪農作業は主に父と母、夫と私の4人で行っている。

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酪農部門は経産牛72頭、未経産牛24頭、繁殖和牛部門は経産牛25頭、子牛20頭、合計141頭。乾乳、搾乳牛で分かれたフリーストール牛舎とオートタンデムの3頭ダブルパーラーがある。ほかに育成牛舎、堆肥発酵処理施設、繁殖和牛牛舎、堆肥舎がある。牛舎は採光用に屋根を高くし、東・南を開放し風通しを良くしている。また細霧と扇風機30台で暑熱対策にも注力している。哺乳ロボットを導入したことで生育状況を把握でき、作業時間も大幅に減少した。

父が酪農を始めた頃、地域農業は養蚕が中心だった。昭和51年に30頭まで増やし、トラクターの導入で飼料生産の効率化を高めた。平成12年から和牛飼育に本格的に取り組み、平成14年にフリーストール牛舎を新設、TMRミキサーを導入した。平成17年から和牛をさらに増頭し、乳牛も78頭を飼育、現在の乳肉複合経営を確立させつつ、畑の借入面積も拡大させ、近隣補助の獲得や集団化を進め、労働力の省力化に努めてきた。

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当牧場の経営の背景には3つの要素がある。1つ目は従業員を雇用しない家族4人での経営。2つ目は家族で管理できるだけの飼育頭数。ほ場面積を維持するため和牛には自給飼料を用いるが、乳牛の飼料はすべて購入し、省力化を図っている。3つ目は夏が暑いため、過度に乳量を追求せず、適正な繁殖管理に重点を置き、乳牛の連産性を高めている。「決まった時期に計画通り仕事を終わらせる」「家族と過ごす時間を多く持つ」「娘たちの学校行事に参加する」など、幅広く活動できる“ゆとりある経営”を目指し、乳肉複合経営を確立させるに至った。

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乳肉複合経営は、効率よく利益を上げる和子牛販売で、ホルス初妊牛を導入できる。自家産の発酵堆肥をほ場に撒き、質の良い牧草を収穫するとともに、近隣農家に余剰堆肥を配布することで、和牛用のワラを提供してもらう。また、和牛の増頭により飼料生産のために近隣の土地を有効活用し、イタリアンライグラスを栽培している。赤城おろしによる畑の荒廃を防ぐとともに、地域への土砂飛散量の軽減をすることにも貢献している。

“ゆとりある経営”を行える適正規模は、家族4人で7〜10時半、17〜20時の労働時間で作業を終える規模と考えている。哺乳ロボットで飼育作業の省力化を図り、管理獣医師の活用で個体の成績を高めるとともに事故を減らす努力もしている。月に1回はヘルパーを活用し、休日も取得。近年、地域との交流にも力を入れ、研修生の受け入れなど地域の農業後継者育成への貢献や牧場体験の場の提供も行っている。

今後は適正な個体管理で出荷乳量を高めるとともに、乳牛・肉牛とも徐々に頭数を増やすことを検討している。28年度までに酪農部門85頭規模、和牛部門40頭まで出荷頭数を増やし、搾乳牛頭数だけでなく和子牛の販売強化を進めたい。ほ場面積を維持しながら近隣農家との連携を強め、家族4人による乳肉複合経営を確立し、厳しい諸情勢を乗り切っていきたい。

酪農家に嫁いだ頃は生活サイクルに慣れないなどの苦労もあったが、家族との時間、地域の行事に時間を割くことができ、ワーク・ライフ・バランスがとれ、毎日充実した生活を送れている。今回の発表が酪農に取り組む女性の仲間が増えるきっかけになればと思う。

※発表内容から抜粋しています。