第33回の発表者紹介

藤本 保美(熊本県)

優秀賞 すこやかファームの看板を引き継いで目指せ理想の酪農

私たちの農場は熊本県北東部の、東に阿蘇山を望む菊池地域の旭志地区にある。熊本県は西日本有数の酪農地帯で、全国で4番目の生乳生産を誇る。菊池地域の7万3千トンの生乳生産のうち、旭志地区は2万2千トン。JA菊池酪農部会の150戸の部会員のうち旭志地区は48戸。酪農家以外にも肥育、育成、繁殖など畜産が盛んで、後継者もたくさん残っており切磋琢磨できる環境だ。
藤本家は、祖父が昭和20年に入植。昭和40年代初めから旭志村農協が酪農の推進を開始。祖父が昭和44年に6頭の搾乳牛を飼い始め、昭和53年には35頭になった。夫は高校を卒業した平成12年に経営に参加。米と茶の兼業農家に生まれた私は、平成17年に夫と結婚、平成23年より手伝うようになった。当時は繋ぎ牛舎で、搾乳するのも怖く、子育てをしながらで大変だったが、家族の支えでやりがいを感じるようになり、今は150頭余りの世話に奮闘している。夫は朝の搾乳、TMR作りと朝夕のコンポストバーン撹拌や自給飼料作り。私は朝夕の搾乳と保育・育成の担当と家事全般。父は夕方の搾乳、母は子供の送り迎え等、家事育児を担当してくれる。女性発表者として言わせてもらえば、搾乳に、哺乳に、育児に、家事に、“女性あっての酪農”である。

牧場の牛乳は『フードプラン熊本阿蘇すこやか牛乳』としてコープこうべで販売されている。「阿蘇山麓で、遺伝子の組み換えをしていない飼料のみを給与した牛の牛乳を」との提案がきっかけ。現在は自給飼料の減農薬と牛舎への殺虫剤未使用を特徴として、私たちを含めて5戸が取り組んでいる。『すこやかファーム』という名前は「牛が伸び伸びと過ごす」コンポストバーンのコンセプトにぴったりだと思い、両親が以前に使っていた看板を新しい牛舎にも掲げた。

規模拡大にはコーンサイレージの増産が不可欠。自給飼料増産には、農協が平成8年設立した53軒の農家で構成されるコントラクター組合の力が大きい。また、コーンサイレージの二期作ができることも特徴。不耕起播種で二期目も質・量ともに十分に穫れる。
コンポストバーン牛舎との出会いは平成23年の11月。フリーバーン牛舎を建てる時だった。熊本経済連から「是非見てほしい牛舎がある」と宮崎に視察に行ったところ、その牛舎が素晴らしく、牛がとても綺麗なことが印象に残った。翌朝には夫が決意。「設計をゼロからやり直す」。計画が丸1年遅れたが、牛舎の配置を見直し、飼層の高さ、水層の高さを5センチ単位で検討。熊本経済連、宮崎の牧場の設計士との打合せは長時間に及んだ。やっと満足のいく設計ができ、最高の牛舎になった。

ここからは牛の目線で、コンポストバーン牛舎を紹介したい。
“どうです?私たちの乳房、乳頭、とっても綺麗でしょう?これがコンポストバーンの一番の魅力。拭き取りもとっても楽みたい。搾った後は朝ごはん。採食用の通路には戻し堆肥を敷いてくれているわ。通路には溝があって、滑ってゴロリン、なんてことはないわ。石の上に乗ったエサは、ステンレスと比べてこびりつかないので清潔で、とってもおいしい。食後の水も(水槽が)長〜いので、いつでも飲めるの。牛舎の一番の特徴は擁壁。1.5メートルもあるの。ベッドには70センチぐらいお布団が積み上がっているから、80センチくらい出ているわ。「夏は暑いでしょう?」って聞かれるけど、たくさんの換気扇がついているからすぐに温度が下がるの。ベッドもフリーバーンと違って真っ平らだから、とっても寝やすいの。寝る時間が多くて元気モリモリ、お乳もモリモリ。仲間もどんどん増えて、36頭だった搾乳牛が、今は86頭。お乳も平均で37キロも出ているの。去年から7キロも増えて、12月ぐらいからは35キロより下がらないの。事故もとっても少ないの。こんな感じで、とっても満足しています!”

コンポストバーンに移ってから、乳房炎が激減。乳房炎軟膏を使わず、ビタミン給与で治癒する。まさに『奇跡の牛舎』だ。コンポストバーンの撹拌による発酵熱のおかげで、蹄病の発症も少ない。牛のストレスが少なく、この夏は周産期病の事故は1件もなかった。今後は耐用年数の延長が期待できる。出荷乳量も平成26年に年間790トンに達し、今年度はさらに伸びている。カウコンフォートと経営の両面から非常に優れたコンポストバーン牛舎のモデル農場として、その良さを全国の酪農家と牛たちのために広めていくことが使命と感じており、この発表会はその第一歩。両親から受け継いだこの『すこやかファーム』が全国に広がり、第2、第3の『すこやかファーム』が誕生することを願っている。そして、子供たちにこの看板を引き継いでいきたい。