第34回の発表者紹介

橋本 拓也(青森県)

優秀賞 橋本拓也さん(青森県) 作品タイトル 牛の願い、その実現を目指して

・青森県・六ヶ所村の酪農と橋本牧場
青森市や八戸市から50キロほどの下北半島の太平洋沿岸に位置する、人口1万1000人の小さな村。露地野菜栽培も盛んな地域だが、酪農は村の基幹産業といえる。青森県の酪農は、経産牛は平成27年が約1万2200頭、酪農戸数は約200戸、出荷乳量は6万3000トンほど。六ヶ所村は43戸で県内の2割を占める。祖父の入植から始まった橋本牧場は、今年で61年目。私は酪農ヘルパーから16年、経営に関わってから6年目を迎える。

・酪農経営の取り組み
私が重要視したのは、家族経営を基本としたつなぎ牛舎、飼いやすい牛群と飼養管理、そして堆肥処理の3つ。搾乳牛舎は個体管理と少ない環境変化を目指した。飼槽側の壁は横断換気ができるシートカーテンを採用。中央通路はゴムマットを敷き、尿溝全面にすのこを設置した。コークの汚れと蹄病の予防にもつながっている。牛床と飼槽との仕切りを高くして、牛が飼槽側に体を出すこと、TMRを牛床に引き込むことを防止。機械化した中で、意識して人力でがやっていることのがエサ寄せ。タイミングと残滓の量、牛の状態を確認するようにしている。家族労働の軽減策として、飼料は地元のTMRのみとした。効率的に食い込ませるために自動給餌機を購入し、1日6回給与している。また乳量に応じて最大2kgの配合飼料を足している。

デイリーサポート吹越には吹越台地飼料生産組合と15戸の酪農家が出資。自給飼料生産や圃場管理、TMRの製造を行っている。地元の糟類の有効利用がそのTMRの特徴。リンゴジュース糟は嗜好性も良く、消化性の高い繊維確保にも貢献している。近隣市町村からの豆腐糟、醤油糟が安定的に確保でき、3年前から稲、WCSの利用も始まった。県外からキノコ菌床、ビール糟を利用している。WCSは生産者側からの検討を重ね、今年は18haまで拡大。地域で利用されなくなった畑を借り、草地168ha、デントコーン170haまで拡大することもできた。
ヘルパー時代の経験から、自分が飲むことを常に意識した搾乳を心がけている。汚れを持ち出さない、持ち込まないこと、そして整理整頓。地元の育成施設の受け入れ枠不足から県外の育成牧場に外部委託を始めた。運賃は掛かるが、経営には大きく貢献している。1日6回の意識した発情確認、乳器の改良を意識した交配プログラム、週1回の繁殖検診、体型審査を実施し、優良牛からは性判別受精卵も作っている。

分娩前後の管理強化として、乾乳舎を整備したいと考えた。搾乳牛舎はつなぎ牛舎だが乾乳中は寝起きがしやすいフリーバーンとし、乾草を腹一杯食わせることを意識した。特に分娩後のTMRの食い込みは注意して観察している。回復が思わしくない個体は乾乳舎の一部を使い、ゆったり過ごさせ、搾乳時のみ搾乳牛舎に移動させる。通路にはゴムマットを敷き、牛舎間の移動時の事故はない。
最後に糞尿処理について。労力をかけにくく、近くに湖があるため適切な処理が必要なことから、スラリー処理体系とし、処理室の排水も同時に処理できるように工夫した。固液分離器を通し、固体は堆肥舎に、液体はいったん貯留槽に戻す。土壌分析のもと、デイリーサポート吹越の圃場に全量を還元している。
乳量は8800キロから1万140キロまで伸ばすことができた。自動給餌器を利用してTMRを腹一杯食い込ませたことが大きな要因。分娩間隔は400日を切る辺りで安定している。乳量、乳質を維持しつつ繁殖管理に努め、後継牛の確保もできた。

共進会への参加で、私の酪農の可能性が大きく広がった。牛は改良するものということを教えてくれた。共進会で知り合った仲間とは、Facebook等で情報交換しており、貴重な情報源となっている。視察や研修の受け入れも増え、酪農を志す人や関係者の役に立てればと思う。六ヶ所村では農業支援員という独自支援制度で、酪農や農業を志す人を応援している。酪政連の経営発表にも参加し、仲間との絆が深まり、県内の酪農仲間とも交流を広げることができた。

・これからへの思い
今後はF1や和牛受精卵でのスモール販売に力を入れたい。発育強化を図るため、牛舎敷地内に40頭規模の保育舎を建てたい。そして労働力の確保のため、福利厚生を整備し法人化も進めたい。現在の経営規模で酪農ができるのも、関係機関の支援、家族、仲間がいるから。少しずつ経験を重ねてきたが、今後は誰かを目標にするだけでなく、目標にされる酪農家を目指したい。 私の考える「牛の願い」とは、この牧場に生まれて良かったと思えること。小さな変化も見逃さないことがこれからの牛舎改良や、これからの健康面での早期発見につながる。事故のない牛舎や、長く働いてくれる牛群をつくっていく方法を、これからも探し続けていきたい。