第34回の発表者紹介

久保 淳(岩手県)

優秀賞 久保淳さん(岩手県) 作品タイトル 能率・効率・省力化を重視した自給飼料型酪農

・岩手県・一戸町の酪農
岩手県の内陸北部に位置する人口13,000人ほどの小さな町。奥中山の酪農家は現在39戸。平均飼養頭数は100頭を越え、岩手県のなかでは規模拡大が進んでいる酪農地帯だ。第三セクターが運営する奥中山高原農協乳業があり、ホルスタインの牛乳、乳製品のみならず、ジャージー牛乳も地元の名産品として好評だ。

・久保牧場について
私は海外研修を志し、大学校を2年間休学して青年海外協力隊で南米パラグアイに行った。海外でのゼロからの経験は、酪農を始めてから様々な困難を乗り越え、発展させることができた原動力になっている。 昭和35年に祖父が酪農を始め、昭和55年に父が現在の搾乳牛舎を新設し、経産牛40頭規模にした。平成16年に私が就農し経営を移譲され、経産牛頭数を50頭規模まで拡大した。

・酪農経営の取り組み
経営の特徴は、能率、効率、省力化を重視していること。一つめの取り組みが、作業性を追求した搾乳システム。搾乳牛舎の中央通路の尿溝の上にパイプラインを設置した、パラレルパーラーのように牛の後方からミルカーを装着するシステムだ。作業効率の向上と労力軽減につながり、50頭の搾乳作業が一人でも約1時間で終了する。
搾乳性を優先した牛の更新を行ってきたため、牛はおとなしく、搾乳中に糞をする牛もほとんどいない。牛にも人にもストレスなく、楽に短時間で搾乳ができることは重要なことだと思う。
二つめは給餌作業の自動化。育成牛舎を増設する時に、TMRの自動給餌機を導入した。給与効果で乾物摂取量が増え、個体乳量も伸びて乳飼比が5%以上下がった。デントコーン畑や牧草地も広く、乾草の購入量も減らしている。配合飼料は利用せず、単味の濃厚飼料で調整。トウフ粕やふすまで飼料費を大幅に削減している。我が家はNon-GMO牛乳の生産農家。kgあたり6円の加算金があり、乳飼比を40%に抑えることができた。
三つめは、保育・育成管理の自動化。古い牛舎を利用し、哺乳ロボットを導入した。少量多回給与で発育が良くなり、省力化と子牛の発育向上化が実現。フリーストール育成牛舎にはバーンスクレーパーを設置。哺乳ロボットのある旧牛舎で管理している乾乳牛の牛舎をどうするかが今後の課題。
カウコンフォートは生産性向上と労働環境の改善が図られる。搾乳牛舎はトンネル換気、育成牛舎は8台のインバーターファンと屋根断熱により暑熱対策を実施しているので、夏でも受胎に問題ない。搾乳牛舎の水道配管は十分な給水量を確保している。牛床マットやフリーストール育成牛舎の通路マットで、事故もない。

圃場作業は、牧草地24ヘクタールを共同作業で収穫。牧草は主に乾乳牛、育成牛に給与している。堆肥処理は、近隣の農家と共同で発酵施設を購入。冬場の発酵は難しく、搾乳牛舎横の堆肥舎に保存し、春以降にこの施設で処理。出来上がった堆肥はすべて自分の畑に還元する。
自分で人工授精を行うことで牛の調子を把握している。牛群改良と搾乳効率を優先してきたので平均産次は2産以下。能力が劣る牛を長く飼うことで平均産次を伸ばす必要はないと考えている。牛群が揃ってきたので、和牛受精卵やF1生産を増やしていく予定だ。
2年に一度、生協連パルシステムの産地視察があり、消費者の方々に搾乳体験もしてもらう。自宅周辺にパラグアイで見たひまわり畑を再現。地元マスコミで取り上げられ、農場のすぐ近くにあるひまわり畑が酪農のイメージアップにつながることを願っている。
来年度から近隣農家4戸共同で、TMRセンターを設立する。個人での機械投資が減り、経営効率が向上する上、省力化も期待している。乾乳牛の飼養環境が悪いという課題も、牛舎を新設し、さらなる生産性向上を目指したい。

・今後への思い
私は、一人でも可能な酪農経営を目指し、中学校の英語教員の妻には自分の道を歩んでほしい。夫婦が自立し、共稼ぎをしていることで、酪農家に嫁ぐ人が増えることを願う。子供たちには酪農を選んでくれれば良いが、それぞれ自分の夢を持ってほしい。 自分の酪農は、家族の支えがなければ、今のような形にはなっていなかったかもしれない。両親は、年中休みなく、一日中牛舎仕事をしながら子育てをしてくれた。いまは能率、効率、省力化を重視した経営で、両親には楽をしてもらっているはずだが、昔からの生活サイクルを崩せないようで、なぜか牛舎にずっといて牛を見てくれている。そんな両親に心から感謝している。