第34回の発表者紹介

髙橋 守(北海道)

最優秀賞 株式会社髙橋牧場 代表取締役 髙橋守さん(北海道) 作品タイトル 牛と大地と私たちがひとつになって/ニセコの恵みを届ける牧場へ

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・ニセコ町について
北海道ニセコ町は、札幌から西に約100キロで新千歳空港から車で約2時間、人口はおおよそ5000人。夏は最高気温が30℃を越えることもあるが、冬は-20℃になる時もある豪雪地帯に入る。私が所属する羊蹄農協は、平成9年に羊蹄山を囲む8農協が合併してできた。酪農畜産家戸数は約90戸で、年間生乳生産量は約2万トン。ニセコ町には酪農が10戸あり、年間生乳生産量は約4000トン。

・髙橋牧場について
髙橋牧場は昭和初期に父が始めた本場と、離農予定地だった農場を買い取った第二牧場があり、本場の約60頭、第二牧場の約80頭の計120頭の搾乳牛と育成牛を加えた245頭を飼育している。本場は私と妻と長男、従業員2名で管理しており、第二牧場では新規就農を目指す従業員を含めた4人が働いている。年間出荷乳量は、本場は平成27年度は583トン、第二牧場は836トン。牧場とは別にアイスクリーム、飲むヨーグルトなどを扱うミルク工房に町内野菜を提供できるレストランを併設。牧場とミルク工房、レストランのスタッフを合わせて、総勢50名が働いている。

私は昭和45年に就農。47年に酪農専業に一本化し、牛群改良を開始した。仲間と乳牛改良同志会を立ち上げ、共進会での上位入賞を目指した。生乳生産調整があり苦しかった頃、F1受胎牛を育成販売の話があり、大きな借金をして100頭入りの育成牛舎を作った。酪農組合F1部会も設立したが、61年に初乳牛の価格が大暴落しさらに大きな借金を背負うことになった。その頃、腹の子供がETのホルスタイン初乳牛を買う話があり、良い血統の牛を導入して雌子牛を販売するしかないと思い、妻の退職金や嫁入り資金と農協の融資で購入。その受精卵で47頭の牛が生まれ、地域の乳牛改良に貢献した。遺伝能力消化経済効果で、2回連続全国1位となり、期待通りの乳牛改良を進めることができた。雪印乳業の受精卵移植研究所ともコラボしながら採卵し、年間8000キロの個体乳量が、平成14年には1万キロを越えるようになった。

・酪農経営の取り組み
平成14年、長男が帰って来たこともあり、後継者のいない牧場の将来について考えるようになった。新規就農を目指す若者がスムーズに酪農を始めることができないかと思い、離農を考えていた牧場を買い取り、第二牧場として新規就農の若者を入れることにした。第二牧場は信用が得られるまでの時間をつくる場所でもある。従業員にはすべての管理を任せており、これからのニセコの酪農を担ってくれると信じている。
平成24年にTMRセンターを仲間6人と設立。個々の農地を集約・管理することで有効活用ができるようになり、土地や機械の購入という新規就農者の負担がなくなった。ここでは良質な粗飼料づくりを目指している。飼料用トウモロコシの面積は95ヘクタール、牧草地は230ヘクタールあり、13本のバンカーサイロに貯蔵。収穫作業は仲間と協力し、播種・管理は私たち自身。収穫運搬は町内の建設業者に委託している。センターではエサとなる牧草、飼料用トウモロコシの管理に配慮。美味しい商品のために美味しい牛乳が必要で、牛の食べるエサも美味しくなければならないと考えている。

平成5年に二度目の生産調整があった時、牛乳を加工し消費者に届けることはできないか、チーズなら牛乳を10分の1に固められるのでは、と考えるようになった。初めは「年齢を問わず食べられるアイスクリームが良い」と勧められ、平成9年にミルク工房を開店。道の駅にも店舗を開きソフトクリームを販売した。冬場は苦戦したので、飲むヨーグルトをつくり、温泉やAコープ、近所のスーパーなどで扱ってもらった。平成16年に九州のオーブン製造会社の「農業生産者がつくる新鮮なお菓子」の提案から、牛乳を使用したプリン、シュークリームなどから始まり、商品を増やしていった。平成19年に新店舗を作り、菓子製造で通年雇用が可能になった。次男に焼き菓子の工場長として新商品の開発を任せた。緊張感を持って仕事をし、大切に商品を作っているところを見てもらうために店内をガラス張りにした。アイスクリームの手作り体験もおこなっており、ニセコ町の野菜の直売所も、ミルク工房内にある。

畑作の農家と連携で地域の農家が生き残っていくために、堆肥を有効活用しようと「明日の農業を考える会」を設立。建設業の廃材を利用して堆肥を作り、畑への還元に取り組んだが、悪臭、害虫などの問題が起き、平成11年にニセコ町に堆肥センターを建設してもらった。堆肥を利用した畑作農家の野菜を優先的に使用したレストランも設立した。開店当初は不安や反対の声もあったが、お客様が次々と来店し今では大変賑わっている。野菜そのものの味を活かした料理への私のこだわりとシェフがぶつかり合いながらメニューを決めた。シェフの味付けと野菜をそのまま活かしたレストランになった。
TMRセンターのおかげで良質な粗飼料を十分確保できることから、規模拡大を決意し、牛の快適性と、人が管理しやすい120頭規模のロボット牛舎を建設することにした。また今年冬からチーズ作りも本格的に取り組み、フレッシュチーズをその場で食べてもらうようにと考えている。チーズ工場も建設中だ。TMRセンターについても、構成員の乳量が設立当初より増えた。高齢化した酪農家や、新規就農のためTMRを外販していくことも考えており、町の酪農を活発化させていきた。第二牧場を独立させることも考えている。地域での信頼も得て、農業をやる思いを持ちつづけている彼らなら、独立しても大丈夫だと思っている。彼らなりの新しいスタイルを切り開き、酪農業の発展に関わってほしい。

・今後への思い
本当に多くの牛たち、沢山の人たちと出会いがあり、今この高橋牧場がある。これからは、若い人たちが中心になっていけるような酪農を引き継いでいくことが、いちばん大切な仕事だと思っている。これからも、酪農家であるからこそ、安全安心な製品を作ることにこだわっていきたい。ミルク工房のシュークリームは、毎日搾りたての牛乳が沢山入っている。開発当時、クリームを固めるために試行錯誤していたが、固めると牛乳の本来の味がしなかったので、固めることは敢えてせず、お客さんの手に渡る直前にクリームを入れ、吸って食べてください、というスタイルで販売を始めた。私がお客さんに提供したいのは、自分の作った牛乳の味。生産者と消費者をつなぐことができる商品をこれからも作っていきたい。