第35回の発表者紹介

手塚 佑一(栃木県)

栃木県 手塚 佑一さん地域と共に歩む酪農経営を目指して

・栃木県真岡市について
栃木県の酪農家戸数は748戸、乳牛頭数は52,100頭、生乳生産量は年間約33万トン。都府県の中で生乳生産量が最も多く、首都圏に生乳を供給するという重要な役割を担っている。 私の住む真岡市は、栃木県の南東部に位置しており、人口は8万人を超え、農業、工業、商業がバランス良く調和のとれた理想的な地方都市だ。

・手塚牧場について
我が家の酪農の歴史は、昭和35年に祖父が導入した1頭の乳牛から始まった。最初の規模拡大は、高度成長期の昭和47年に父が20頭の屋内牛舎を新築。その後、増改築を繰り返し、景気回復期の平成15年に60頭収容のフリーバーン牛舎を新築。私は翌年の平成16年、栃木県農業大学校を卒業後に就農し、現在に至っている。

・経営について
現在、経産牛47頭、育成舎で育成牛を25頭飼育。作業分担は、私が搾乳、牛舎清掃、畑作業を行っており、父は給餌、畑作業、経理を、母は搾乳補助、哺乳を、妻は現在、育児、家事全般を行っている。また、家族内で話し合い、無理のないゆとりある酪農経営を心がけている。現在、酪農ヘルパー利用組合に加入し、休日を設けて研修会等に積極的に参加している。

・さまざまな取り組み
本牛舎はフリーバーン方式で、搾乳施設はアブレストパーラーを採用。フリーバーン牛舎のメリットは、牛たちが常に自由であること。食べたい時に食べ、飲みたい時に飲み、寝たい時に寝、好きなことをしている。まさにストレスフリーの状態が続き、さらに、居住スペースが広く、背中の丸まり、脚の腫れ、爪への負担が起きにくく、管理にも手間が掛からないと感じている。 糞尿処理は、フリーバーン牛舎から排出された糞尿混合の堆肥を糞乾燥施設に投入し乾燥、水分調整後、約5割は戻し堆肥として、残りの5割は圃場へ還元し利用。戻し堆肥にすることで、敷料費や水分調整剤などの資材費の軽減にもなっている。 暑熱対策は、送風ファンと細霧システムを利用している。換気方法は“リレー換気”を採用。一直線に設置した換気扇で空気を送りながら、舎内の空気を外へ排出し新鮮な空気を取り込んでいる。 育成牛舎は、昔のつなぎ牛舎を改造して使用している。 60頭牛舎で、毎月ほぼ1頭のペースで初妊牛が上がってくる。 種付けについては、牛のスタンディング等の発情の発見から、状態によっては8〜12時間後に授精するように授精師と連携を図っている。間接的な経済効果も高く、この部分が手塚牧場の強みだと自負している。育成の課題は施設が狭く密飼いになっていること。飼養管理が疎かになるため外部預託も視野に入れている。

平均種付け回数は、近年では2.2回となっており、全国平均の2.3回と同等の数字を出している。 手塚牧場では枯草菌培養液を使用している。きっかけは平成26年。乳房炎になる牛がかなり多く、淘汰、廃用にたくさん出し、経営を圧迫していた。自分で悩み考えているさなか、バーンミーティングを行っていただき、全国農業協同組合連合会岩手県本部の大津先生にご指導もいただき、搾乳時の自動離脱装置の使用や乳汁検査の実施、西日対策等、数点ご指摘を受けた。各関係者の方々に話を聞き、枯草菌培養液の存在を知った。実際に使用している方からの評判が良いとのことなので試してみようと取り組みはじめた。効果としては、酪農家の問題である堆肥等の臭気は薄くなり、ハエの発生も少なく感じ、また、夏場でも乳房炎の原因菌の増加抑制になっている。各取り組みの結果、乳房炎の牛は現在かなり少なくなった。それに伴い、牛群検定の経産牛一頭あたりの年間乳量成績も伸びており、今後も継続していきたい。
自給飼料については、耕地面積は約730a。品目は、イタリアンと燕麦の混播を約100a、イタリアンの単播を630a作付けしている。なお、圃場の大半は自宅に近いため、効率よく自給飼料生産が出来ている。現在、配合飼料が高額なため、栄養価の高いデントコーンを栽培し、良質でいつでも新鮮なものを与えられるロールサイレージを作り、自給飼料の増産を考えている。 イタリアンロール収穫作業棟を近隣の酪農家2戸と協同で行っている。機械もロールベーラー、ラッピングマシーン等を共同購入し、作業の効率化、機械の低コスト化を図っている。

・今後への思い
私は現在、酪農組合青年部、JA青年部に所属。酪農組合青年部幹事として、これからの酪農経営を移譲される世代にとってできることは何かを会議で議論し、視察研修や講習会への参加、酪農家の深刻な悩みの後継者問題等に取り組んでいる。 真岡市酪農組合では毎秋に開催される真岡市大産業祭において、乳牛共励会や牛乳試飲、無料配布、堆肥の無料配布、子牛とのふれあい等、各種イベントを通し、より安全で安心な牛乳をPRし、酪農家の現状も分かってもらえるよう、一般消費者との交流を図っている。 酪農家にできることは牛を身近に見てもらい、触れてもらい、牛のことを良く知ってもらうこと。できれば、酪農に、牛に興味を持ってもらい、仕事とし、それをまた、次世代の子供達に伝えていってもらいたい。今後私も、酪農教育ファーム等を行ってそれらを伝えていければと思っている。
これからの農業は、地域での取り組みが大変に重要。このような環境でより良い物を作っていくには、お互いに理解し、共に手を取り、ひとりでは困難なことも、皆で協力し合うことによって解決できる。そのような地域を目指したい。まず、自分にできることとして、耕畜連携、環境保全から取り組んでいきたい。そして、家族を守り、地域を守り、環境を守り、人と人との繋がりを大切にして、地域の一員として、共に歩み、酪農経営にあたっていきたい。