歴代の発表者紹介

川上 哲也(島根県)

優秀賞 先進ツールを活用した酪農経営

出雲市は島根県の東部、宍道湖の西にあり、出雲大社が有名。私の牧場は出雲大社から車で10分程度の距離に位置する。島根県の生乳生産額は農業産出額全体の1割にあたり、私の加入する島根中酪はその約2割を占める。

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鳥取市出身の私は、鳥取県の農業大学校から同県の酪農ヘルパー組合に就職。結婚と同時に就農し、島根県畜産技術センターでの研修を経て現在に至る。経産牛45頭、育成牛23頭を飼養。私は搾乳、飼料管理を行い、父は堆肥関係と簿記。妻は子供が幼いため夕方の作業のみ。牛舎管理の簡略化や2週間おきのヘルパー利用で、子供といる時間を多くしようと心がけている。牛舎の真後ろに住宅があり、すぐ都市部。規模拡大も難しく、近隣住民を意識した経営で酪農の理解に努めている。廃業農家からの給餌機で無駄な飼料が減り、労働力の低減にもなった。堆肥は近隣の耕種農家や家庭菜園などに配達・販売して耕畜連携を行っている。

経営方針は、①牛群検定の積極的利用、②高能力牛群の早期造成、③事故低減対策の徹底、④安定的な収益の確保の4点。「繁殖台帳Webシステム」を利用して繁殖管理を行っている。疾病、作業なども記録でき、牛群検定に反映され省力化ができる。データは携帯やパソコンで、家族や従業員、獣医や授精師、普及員と共有できる。繁殖検診は分娩後40日で初回、その後は毎週検診で、ホルモン処理や妊娠鑑定などを実施。発情日、授精日、妊鑑日の入力で次回の発情日や分娩予定日数が表示され、牛群検定にも反映。毎日の作業では気付かなかった問題などにもすぐに対応できる。牛群改良は長期的だが、確実に経営を改善してくれる。Webシステムは改良のスピードを上げ、近親交配を避ける経営方針に合った種雄牛を容易に選択できる。交配プログラムや雌雄判別精液を利用し、確実に雌を生ませ後継牛を残している。

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日々注意しているのが代謝病予防と乳房炎対策などの事故対策。P/F比のグラフでアシドーシス傾向の牛は餌食いや毛ヅヤ、便の状態などを注意している。リニアスコアが上位の牛は乳房炎をすぐに治療。感染性の乳房炎は乾乳期に徹底した治療をしている。定期的にバルク乳を検査し、搾乳機器の点検、整備も行っている。

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家族で対応できる範囲の飼養頭数で収益を上げるために、牛群検定に基づく飼料給与、稲ホールクロップサイレージや河川草刈ロールの活用、淘汰牛を妊娠牛にして販売、経産牛からのET和牛・F1の生産の4点を実行している。ヘルパー期と研修期に100軒以上の牧場で様々な飼料管理や酪農機械を見たことで、乳量・乳質の向上、繁殖成績の向上、事故率の低減、収益性のアップなどの効果が出てきた。乳質では24年度良質乳生産農場で表彰された。

作業効率向上、事故減少でできた時間は有効に使っている。島根県種畜共進会では第1区2席を受賞した。県内酪農家に対して繁殖台帳Webシステム講習会とバーンミーティングも行った。酪農教育ファームの認証を受け、障碍者や学生と交流も行っている。子供に哺乳やエサやりなどを体験させると牛と仲良くなって帰っていく。農業高校インターンシップには牛乳を生産する思いを伝えている。こうした活動で牛乳の素晴らしさが理解され消費量が増えることが、厳しい酪農経営を打破する近道と信じている。FacebookやTwitterを利用し、世界中の酪農関係者と情報交換している。海外の種雄牛情報、飼養管理技術や、酪農機械などの最新情報もいち早く得ることができる。

今後安定的な経営が実現できれば、次のステップに進んでいきたい。自分の生産したものを消費者に届ける6次産業化にも興味がある。私の活動が地域に理解され、条件が整えば大規模な増頭もしていきたい。多くの人と関わり、交流したことが刺激となり、夢は広がる。地域を盛り上げていき、この酪農業界を牽引していける酪農家に私はなりたい。

※発表内容から抜粋しています。