歴代の発表者紹介

農事組合法人日登牧場(島根県)

優秀賞・特別賞 里山放牧を活用した低コスト酪農を目指して

雲南市は島根県の東部に位置し、人口4万1千人、面積は553平方キロメートルの大半が林野。全国最多の銅鐸が出土した加茂岩倉遺跡は国宝に指定されており、当牧場から車で15分程度の距離にある。雲南地域は、特産品の奥出雲和牛など和牛飼育が盛んで、飼養頭数は県の30%を占める。島根県の生乳生産額は農業産出額全体の約11%。私の加入するJA雲南は、県の生乳の約7%を生産している。

島根県奥出雲の斐伊川流域の豊かな土壌にある日登牧場は、自然に根差した酪農から生まれる“究極の牛乳”を追い求め、スイスモンブラン牧場を再現するために、平成3年にブラウンスイス種を、米国から16頭導入し経営を開始。原産国はスイスで、5大乳用種の1種。性質は穏やかで、人懐っこくて、陽気な性格。乳量は少ないが、乳質、特に乳タンパクが高く、また足腰が強くて山地放牧に適している。

日登牧場は経産牛38頭、育成牛19頭、初妊牛22頭を飼養しており、毎年増頭している。労働力は私を含め4人おり、1人はヘルパー要員として近隣酪農家へ月2週間程度派遣し、残りの3人で週1日程度休日が取れるようローテーションを組んでいる。販売乳量234トン、販売高2457万9千円、乳飼比32.9%で、放牧事業と自給飼料で運営。経産牛および初妊牛を365日里山放牧に出している。放牧場17haを3つの牧区に分けて、主に芝草地になっている。搾乳時に牛舎へ帰る牛の姿は非常に迫力がある。尾原ダム付近に近隣農家の所有地を無償で借り受け育成牛を周年放牧。付近には、道の駅や温泉施設が隣接しており、観光客が見学に訪れるなど地域の活性化に一役買っている。放牧で飼育管理労力が軽減されるとともに、牛のストレスが軽減され繁殖状況が安定していると思う。当牧場の乳質関係は、特に変わった技術はないが搾乳手順に重点を置き、基本に忠実に作業を行っているので、良い結果が付いてきている。島根県乳質改善共励会で10年連続表彰を頂いた。

当牧場では、消費者に安心・安全な牛乳を届けたいという思いから、NONGM濃厚飼料、木次乳業NONハイラクトSを給与。生産された牛乳は、山地酪農牛乳ブラウンスイス牛乳という商品名で販売。開業当初は牧場所有の土地がなく、粗飼料生産に取り組むことができず放牧のみで事業展開を行っていた。6年前から宍道湖の開拓地及び赤川の河川敷、合計26haを借り受け、イタリアンライグラス、スーダン、オーチャードの作付を始めた。理由は、飼料価格の高騰。経営に与える影響が非常に大きくなり、近隣農家も同じ状況なので、自家消費分以外の粗飼料は近隣農家へ低価格で販売している。粗飼料生産が安定し始め、乳飼比は30%台にまで抑制。今後は赤川の河川敷の利用面積拡大、耕作放棄地集積も行いながら自給飼料の生産拡大や放牧地拡大を積極的に取り組み、TMRセンターを立ち上げて近隣農家の飼料費低減にも貢献していきたい。混合処理及び切り返しにより堆肥を製造。採草地に散布したり、地域貢献および近隣農家との交流を目的に無料で提供している。近所の奥出雲ぶどう園というワイナリーのぶどう栽培用に提供。糞尿の処理能力は全く問題ないが販売先が少ないので、その開拓を進めていかなければならない。
地元中学生や高校生の職場体験や、各地の大学の実践研修生及び新規就農予定者を積極的に受け入れ、未来の酪農経営者の育成に努めている。当牧場では技術力向上のために、従業員と研修生がバディになって指導しながら搾乳している。研修生の支援として、関係機関が一体となって土地の確保、労働力の支援、種付の指導、粗飼料の提供などを行っている。

「地域の理解あっての酪農経営」が基本。牧場見学を日々受入れ、酪農業に対する理解を持ってもらうと同時に牧場周辺の美化活動を行っている。近所の高齢の稲作農家の畔草刈りも毎年手伝っている。刈った草は牛たちのおやつになる。隣の奥出雲町の酪農地帯にはヘルパー組合が存在せず強く要望されていたので、JA雲南さんと協力して立ち上げた。ヘルパー要員を当牧場の従業員とすることで雇用を安定、日々の現地研修で技術力向上に取り組むことで後継者育成に力を入れている。
里山放牧を活用した低コスト酪農と、次世代の酪農経営者の育成に、より一層力を入れ、地域の仲間とみんなで手をつなぎながら、この仕事を続けていきたいと思っている。