第33回の発表者紹介

濵口 雄一(高知県)

優秀賞 良質でおいしい牛乳は健康な母牛から 〜地域の中にとけこんだ酪農家をめざして〜

高知県は、意外なことに森林率が84%と全国1位で平野部が極端に少なく、自給飼料を生産するのには適していない。また、高温多雨で、牛を飼うのにも適しているとは言えない。畜産部門の産出額は74億円で、県全体の約8%。酪農家戸数、飼養頭数は高齢化や後継者不足などで減少傾向だが、1戸あたりの平均飼養頭数は平成5年と比較して1.75倍となり、大規模化が進んでいる。飼養形態もフリーバーンでミルキングパーラー搾乳方式が増加している。南国市や香美市、大月町では、温暖な気候を生かして1年中放牧する『山地酪農』も行われている。
酪農家で高知県酪農連合協議会を組織して、酪農振興等に取り組んでいる。私は青年部の部長で現在3年目。青年部は、6月の牛乳月間に『ミルクフェア』を開催。ゆずや緑茶と牛乳のミルクシェイクは好評だ。県知事を訪問し、牛乳の消費拡大のPRも行っている。研修、勉強会も実施。県内の牛舎や施設を視察して、自分たちの牛舎に生かせるよう取り組んでいる。
私の住む南国市は県中央部にあり、人口約5万人は高知市に次いで2番目。平成27年の酪農家は8戸。18年前の18戸が、後継者不足などで半分以下になった。私と同世代の経営者、もしくは後継者がいる酪農家は4戸だけというのが現状だ。 私の牧場は昭和31年に祖父が始め、昭和40年に19頭の繋ぎと5頭分のフリースペースを確保した牛舎を建てた。昭和60年に私の父に経営を譲渡。私は平成8年に大学校を卒業後、10年間の酪農ヘルパーを退職後は両親をサポートし、昨年38歳で経営を譲り受けた。私の牧場は便利な立地で近隣に家が建っているので、鳴き声や糞尿の臭いなど、特に神経を使っている。

私の牧場の生産生乳の体細胞はあまり良くない。暑さの中の乳量不足などで体細胞の高い牛も搾ってしまったことによる。過搾乳も原因の一つ。昨年から淘汰など対応を行い、成績も改善されてきた。平成26年は乳量が少し減少したが、今年は乳量も増加できるようになった。高知県は年間降雨量が全国1位、日照時間6位、年平均気温4位の高温多雨の気候で、牛にとって良い環境とは言えない。牛舎内の気温を下げ、添加剤を使い乳量維持に努めている。初産は配合飼料TMRを給与。分娩後、初産・経産ともに、カルシウムやビタミン、強肝剤などを飲ませている。飼料は、牧草の他に1頭1頭の乳量に応じて適量の濃厚飼料やTMRを給餌。牛舎の柱に飼料やTMRの量を記載して、ヘルパーが来ても間違えないようにしている。また、共進会等に参加し、情報交換や助言を得るように努め、牛群の改良に取り組むとともに、安定した後継牛の確保にも取り組んでいる。牛群の状況を見ながらF1の生産も行い、収益向上にも努めている。

平野部の地形を生かして、自給飼料生産に取り組んでいる。デントコーンは、台風や雨が多く倒伏などで刈り取りが困難になり、カラスの被害で収穫量も減ることから、ローズグラスや燕麦を生産。また、田圃の二毛作で自給飼料生産の拡大に努め、WCSにも取り組んでいる。乳脂肪と無脂固形は0.3%以上上昇した。今年から事業で耕種農家10戸の田圃約20ヘクタールからWCSを6〜8戸の農家で買い取っている。堆肥は堆肥センターへ運び、飼料稲の生産にも使用。耕畜連携を図るとともに、地域循環型に貢献している。
高知県では暑熱対策は必須。屋根が低く、スレートがむき出しなので、ヒートストレスが起こりやすい。屋根に散水を行い、扇風機も常時回して牛舎内の気温を下げて少しでも牛の負担を減らすように努めている。来年の3月に県や市の事業を使い牛舎を新しく建てることにした。2棟が1棟に集約され、作業効率、個体管理の向上、牛のストレス軽減を図り、乳質のさらなる向上を目指す。

地域貢献として、近所の小学校の視察を受け入れている。牛舎見学や作業の手伝いもしてもらった。授業で体験発表会を行ってくれ、酪農の仕事の大変さ、大切さを理解してもらえたと思う。こうした取り組みが、今年の全国の先生用の指導書『せいかつ』の地域・事例編に『すてきだな、いのち』というタイトルで、6ページ掲載された。

これからも、酪農を取り巻く環境は決して優しくないが、地域に根付いた活動を行い、良質な牛乳を作っていけば、地域の牛乳を支えていこうと考えてくれる人が増えると信じ、これからも活動していくつもりだ。今回の発表で色々な課題が改めて明確になった。それらを一つずつクリアしていくとともに、今回の発表される皆さんの体験や目標なども、これからの経営に取り入れていければと思っている。そして微力ながら、高知県の酪農・畜産業界を盛り上げていきたい。