第33回の発表者紹介

小川 学(北海道)

最優秀賞 作品タイトル 地域が支え、地域を支える担い手として

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私が住む猿払村は、日本の最北部の宗谷郡内の中央部、オホーツク海に面した人口2783人の村。冬の最低気温がマイナス21.1度。「やませ」と呼ばれる東からの強風が吹くと、流氷が接岸する。夏場は最高気温32.7度になるが、高温の期間は短く、牧草収穫時期にはオホーツク海高気圧が張り出し、1日の大半で霧雨が降り続け、良質な乾牧草を収穫するのが難しい。
猿払村は昭和31年には高度集約酪農地域の指定を受け有畜化が進んだが、風土や水害に悩まされ開拓は計画通りに進まなかった。昭和38年に混合農業から酪農専業へとシフトした、道内でも酪農の歴史の浅い地域だ。
JA東宗谷は正組合員数は131戸。生乳生産農家は、浜頓別47戸、猿払62戸。26年度の生乳出荷量は約7万6千トンと宗谷管内の27%を占める。JAの重点目標は「組合員の生産性向上に係わる支援体制の強化」「地域生産基盤確立のための担い手の育成支援」「自己資本の強化」の3つ。特に「地域の生産基盤の強化」として、組合員の要望で平成16年以降5つのTMRセンターが設立された。私の所属する浅茅野システムレボは管内第1号だ。構成員の草地を一元管理し、粗飼料の収穫から調整・供給を行っている。地域の生産基盤を維持するために、離農農地や遊休農地も管理している。乳量に応じたメニューを供給しているので、TMRと配合飼料を組合せた給与も可能で、経費を抑えることができる。JA東宗谷では24〜26年に3戸が就農、年内に1戸就農予定。TMRセンターが就農者の受け皿の役割を果たしている。

私は平成7年に猿払村酪農ヘルパー組合に就職、14年に浜頓別に戻り実家に就農した。父との営農方針の違いから、平成16年に浜頓別のコントラクター会社に就職。平成18年、システムレボの構成員が営農を断念することになり、浅茅野システムレボ牧場の管理者として入植した。牛や施設をそのまま引き受け、すぐに生産を始めるという第3者継承のような方法で、私の経営は始まった。投資が最低限に抑えられたのは、レボが粗飼料収穫から供給までを一括管理して行っているため。平成20年5月頃、乳検で個体乳量が管内1番になり、生産量も年を追うごとに伸びて経営に手ごたえを感じていた。平成21年に北海道乳質改善協議会で乳質改善大賞を受賞。「良質な牛乳を届けたい」と心がけてきたが、受賞で思いが一層強まった。

出荷乳量の増加と共に単年度の収益は上がったが、1日の作業時間は約14時間。朝晩8時間かけて68頭を1人で搾っていた。負担を減らすために新たな飼養体系を検討。猿払村では導入事例がない搾乳ロボットに挑戦することにした。平成22年12月頃から計画を始め、23年12月にロボット牛舎が完成。繋ぎ牛舎とロボット牛舎の同時稼働で、出荷乳量1000トンを目指してスタートした。1人で効率よく作業することを考えて設計した。通路に除糞用の溝を付け、搾乳ロボットから出る排水のフラッシングで蹄がきれいに保たれる。フィードステーションでは乳量に応じてロボットと合わせて最大7キロの配合を給与。搾乳ロボットから得られるデータで個体管理を行っている。自動給餌機で1日12回に分けてTMRを給与している。

牛舎を新築してから、データを見る時間を増やしている。観察だけでは分からないことを、牛群検定やバルク乳の成分、搾乳ロボットと連動した牧場管理システムを確認し、乳質、乳成分、個体乳量に変化があれば、飼料設計担当者と連絡を取って改善し、コンサルタントからのアドバイスももらっている。パイプラインに比べ、搾乳ロボットは体細胞数・平均数とも 数値が上がっているのが課題だ。廃棄ロスを減らし繁殖を改善すれば所得が増えるので、『良い』と思ったことはすぐに実践するようにしている。現在、繋ぎ牛舎ではロボットに合わない牛と出荷前のフレッシュ牛、乾乳育成牛を飼養している。繋ぎ牛舎に育成牛を置いてからは、公共牧場への預託をやめ自家育成に切り替えた。
年間出荷乳量と平均経産牛頭数は、平成18〜20年は引き継いだ経産牛のみで搾乳しており、頭数と生産量が減っているが、その後自家育成の成長と共に、頭数は増加している。出荷乳量1000トンを目指し、すぐに初妊牛を導入することも検討したが、牛が一気に増えると事故や作業が増えると考え、導入は6頭に抑え自家育成で増頭することにした。現在は順調に増頭している。導入費用を最小限に抑えられ、所得も北海道平均を上回って順調に推移している。

私の所属するJA東宗谷青年部は、20〜40代までの24人が所属。JA夏まつり・猿払観光まつりへの出展、実習生や牧場従業員との親睦会、小学校への出前授業などの活動をしている。今年からは教職員を対象に、食育教育のための農村ファームステイの実施を予定している。私は現在宗谷地区農協青年部連絡協議会の副会長を務めている。今年から『見せる酪農』をテーマに、「きつい」「汚い」「危険」の3Kと、プラス「儲からない」という酪農のイメージを変えようと活動している。
私の農場の今後の展開として、目標の1000トン出荷を2年後に達成。その後5年間は1000トン出荷を維持して、ロボット牛舎に投資した分を回収したい。そして次の4つの展開のうちどれかに進もうと考えている。①『現在の農場で増頭を目指す』。これには2案あって、Aは現在のフリーストール牛舎を増築し、もう1台ロボットを導入。Bは新たに140頭ぐらいのロボット牛舎を建設。②『実家の牧場を買収する』。これも2案あり、Aは育成牧場にする。Bは搾乳牛舎の建設。③『コントラクター会社を立ち上げる』。現在、完全には作業の外部化ができていないので、TMRセンターの作業をすべて委託できれば、農家は自分の経営に集中できる。加入していない地域の作業も請け負うことで、地域全体を支える体制が作れる。④『規模を縮小する』。ロボット牛舎だけで営農し、700トンぐらいの出荷乳量に抑え、1日の作業時間を8時間程度にして、早い段階で次の世代に経営を移譲する。①のBから③までは人を雇用しないとできないので、私自身もっと成長する必要がある。

私が新規就農した時に、地域やTMRセンターが支えてくれたように、これからの人たちのために、技術や経験をアドバイスしていきたい。猿払村の酪農の歴史はまだ浅く、入植2代目から3代目に継承していく大切な時。この継承がうまく進めば、十勝や根釧に負けない酪農地帯に発展する可能性を秘めている。私の経験が、先輩・後輩へのアドバイスになるのではないかと考えている。