第35回の発表者紹介

北海道 河田 敬貴さん

北海道 河田 敬貴さん「十勝」の畑作地域における酪農の朝鮮 〜家族そして地域とともに〜

・北海道音更町について
十勝地方は北海道の太平洋側東部に位置し、広大な十勝平野で営まれる農業を基幹産業とし、関連産業が発達している地域。その食料自給率は1,100パーセントと、国内有数の食料基地となっている。その中にある音更町は十勝平野の中央に位置し、人口は約4万5千人、およそ2万1千haで営まれる農業には多くの人が関わっている。

・河田牧場について
我が家の営農は昭和22年水田0.5ha、畑5haをもって、祖父母が分家したのが始まり。酪農を開始したのは昭和30年で、当時の国の事業を利用し、経産牛3頭の飼養から始まった。
父の就農間もない昭和47年に、近隣の離農後の現在地に移転し、規模を拡大。40頭タイストール牛舎を手作りで建築、畑を30haに拡大した。
その4年後に私は長男として生まれ、大学卒業後、北海道上川地方でNOSAI獣医師として7年間働き、実家に戻って就農した。当時は、酪・肉・畑の複合経営。平成23年に、経営移譲を受け本格的に搾乳ロボット導入を検討。その2年後、牛舎を新築、搾乳ロボットを2台導入し、現在に至る。
畑作農家が元気な音更町にあって、飼料基盤の拡大は厳しく、また、当時の経営規模では、従業員の雇用も難しい現実があった。私と妻、父母の4人で、計19時間かけ、約100頭の牛を管理していた。また、畑作農家が中心にある地区にあって、地域の行事や子供の行事など時間を合わせて参加するのに苦心していた。

・搾乳ロボット導入について
就農後まもなく知人に誘われた搾乳ロボット導入農場のオープンファームで、オーナーの拘束時間の短さ、ロボットの性能の向上やフリーカウトラフィックという新しい概念などに魅了され、搾乳ロボット導入を夢見るようになった。しかし、経営主であった父は導入に猛反対。当時は、北海道内でも搾乳ロボットの導入実績は少なく、多額になる導入時の借り入れと償還のめども不透明で、畜産クラスターのような補助受給もまだ無かったため、父からすればリスクが高すぎるという考えがあったようだ。
その後、経営移譲を受けた私は、オランダでの搾乳ロボット導入農場視察ツアーに参加し、搾乳ロボットが単に人の代わりに搾乳作業をする道具ではなく、データに基づいた管理で個体能力を最大限に引き出せるシステムを有している上、乳価が低い欧州でも充分に償還していることを知った。これをうまく使いこなせば、省力化と生産拡大の両方が達成できると確信。搾乳ロボットを、牛の力を最大限に利用するフリーカウトラフィックを採用していたLELY社のアストロノートA4に決めた。その上で、目指す省力化のため、視察先で行われていた全頭ロボット搾乳にした。
また、町役場とJAが橋渡し役となり、畑作農家が飼料作物を受託栽培する耕畜連携事業がスタートしたことを期に、これを積極的に利用することで粗飼料の収量確保にめどが立つと考えた。さらに畑作農家に播種や防除等の作業を委託し、堆肥と麦藁の交換を継続して行うことで耕畜相互の利益を図った。こうして就農から7年目の平成25年12月に132頭フリーストールに搾乳ロボット2台を導入した牛舎が完成、稼働をはじめた。 搾乳については計画通り、全頭搾乳ロボットで行えている。餌寄せロボットやバーンスクレーパーなどについても、計画通り導入し、給餌作業や除糞作業の負担軽減に大いに役立っている。
泌乳速度が高い牛などは、搾乳が終了してもロボット内で給餌される配合飼料を食べきるまで出口ゲートが開かないよう設定、牛の栄養充足に対応している。給餌テーブルについては、通常は分娩後4〜50日ほどは日数に応じて給与量を調整するところを20日ほどで乳量階層に切り替えるように設定。乳量に応じた栄養充足に重点をおいた給餌を心がけている。

・その他の取り組み
搾乳ロボット牛舎完成からおよそ2年かけて古い牛舎を解体し、構想していた育成舎、乾乳舎が完成した。スムーズな牛の移動と作業動線を考慮したレイアウトで、牛へのストレス軽減や作業の効率化をすることができた。 粗飼料に関しては、現在、牧草13.8ha、飼料用トウモロコシ20.4ha、飼料用トウモロコシの作付け比率を高めている。牧草については管理の容易さから、チモシー単播で細断サイレージにして貯蔵している。草地は収量や雑草繁茂の有無を見て、およそ5〜6年で更新。飼料用トウモロコシは耕畜連携事業で受託栽培している畑作農家や集団と協議し、2回に分けて収穫している。
これらにより、限られた条件で最大の栄養収量確保を目指している。具体的には、搾乳中に少なくとも1日あたり1.5キロの配合飼料を与える前提で部分的混合飼料TMRを設計し、搾乳ロボット内で給餌される2種類の配合飼料の量と濃度を各階層に応じて調整している。

・搾乳ロボット導入効果
搾乳ロボットを導入したことで労働力は変わらないまま搾乳牛を導入前のおよそ倍の103頭飼養している。加えて、個体乳量も導入前の10,220キロから12,472キロへと飛躍的に伸びたことで、農場の年間出荷乳量は導入前の554トンから1,290トンと2.3倍の出荷乳量まで増やすことができた。また、家族の総労働時間は導入前の年間6,840時間に対し、現在は5,760時間へ軽減、特に父母の負担は大いに減った。
搾乳ロボットを導入する前と比べ生乳生産は2.3倍に増え、家族の総労働時間は約84パーセントに軽減されたことで、労働1時間あたりの生乳生産は約3倍へと大幅に増えた。私の思い描いていた労働生産性の高い農場へ近づいていると実感している。

・今後の展望
北海道でも酪農家戸数は減り、代わりに法人化して常雇いで大規模化することによって効率化する農場が台頭しているが、まだまだ家族経営が底辺を支えているのも事実。私はそんな家族経営者のひとりとして、正面切って労働生産性を高め、ゆとりを持って生き残る為に搾乳ロボットシステムを選択し、私なりに省力化、効率化することができた。
今後の展望としては、家族経営を基本に、生乳生産に関しては今の個体乳量レベルを維持もしくは、さらに上げながら120頭搾乳まで増やすことを目標としている。近々では、堆肥舎を増設し、畑作農家への堆肥供給の簡素化を検討している。さらに現在、JAが構想中のバイオガスプラントやTMRセンターを核とした資源循環型農業に参画し、粗飼料の収穫や、堆肥処理の省力化、効率化を検討している。 これらによって、耕畜連携が一層進化し、生産性向上と地域調和を両立させ、畑作地帯にあるわが町、特に農村地域が潤っていけばと切に願っている。