第35回の発表者紹介

芳野 義康さん(奈良県)

優秀賞 芳野畜産有限会社 芳野 義康さん牛に優しく、人に優しく。 〜アイデアと細やかな配慮の都市型酪農〜

・奈良県安堵町について
奈良県の4分の3は山間部で、芳野畜産は奈良盆地の真ん中に位置している。安堵町は奈良県の北部に位置し、県内でもっとも小さい町であり、人口も1万人に満たない。大阪のベッドタウンとして発展、世界遺産として有名な法隆寺のある斑鳩町に隣接しており、聖徳太子にもゆかりのある町。安堵町の名前の由来は「聖徳太子がホッとした、安堵した町」という説が有力だ。
奈良県や安堵町の酪農は、戸数・頭数ともに数えるほど。乳牛は奈良県では天然記念物と思えるほど珍しい存在である。

・芳野畜産の概要
芳野畜産では6名のメンバーで牧場経営を行なっている。経営の概況は酪農を主とし、計205頭を施設3棟で管理・運営を行なっている。 搾乳舎の周辺は住宅地、工業団地、幹線道路と、普通の酪農地帯では想像できない立地で営んでいる。水田もあるが、以前は少なかった住宅地が迫ってきており、このような立地での経営のため、制約がある環境と限られた場所で当牧場は酪農経営をしなければならない。

・経営の目指す3つのポイント
①周辺住民の方々の理解を得ることが重要
②できる限り牛にストレスを与えない環境づくり
③作業を改善することで従業員の負担を軽減
以上から、「牛に優しく、人に優しく」の考えのもとに、改善のためのアイデアを考案し、最低限の投資で収益の最大化を図る酪農経営に努めている。

・さまざまな取り組みについて
酪農の理解醸成活動として、芳野畜産では近隣の小学校から牧場見学の要望があれば積極的に受け入れている。間近で見て接し、触れあい、命の大切さを牛を通して感じてもらいたい、酪農への理解を得たい、という想いもあり受け入れをしている。 堆肥の管理については、芳野畜産にいる200頭の搾乳牛の堆肥をスムーズに処理することは絶対であり、経営に大きく影響する。現在は奈良県内や京都府の耕種園芸農家と連携し無償で譲渡している。 メインの搾乳牛舎の周りは、 写真では「雑草だらけ」に見えるかと思うが、牛たちにとってはこの雑草がとても大事。奈良県には真ん中に奈良盆地があり、周りを山に囲まれているため夏場は外気温38℃ほどになる。牛舎内の温度が40℃近くになり牛を飼養できるような状況ではない中、この雑草がアスファルトの照り返しを吸収し、牛舎内の温度を下げる役割を担っている。 さらに大型送風設備の更新と増設を重ね、また、グリーンカーテンや簾を設置することで牛舎内の温度上昇を抑えている。現在では屋根上にスプリンクラーを設置することにより、より牛の快適性を追求している。
子牛管理は家内の仕事で、我が子のように育ててくれている。乾乳期は事故防止のため分娩前30時間程度はパドックで放牧し、分娩に備えている。搾乳期の給餌管理では、複数の従業員が作業をするため、誰がやっても同じことができる環境づくりがポイント。配合飼料は牛個体ごとに制限給与する必要があり、給餌用スコップを改良することで一杯1kgとなるように工夫し、作業効率化を行なっている。繁殖管理も給餌管理同様、私・従業員・繁殖関係者の誰が見ても繁殖状況が分かるようにしている。

管理用の表データはエクセルを活用して作成しており、コストを掛けない効率的な管理をしている。「見える化」の工夫として、一頭毎の名号・状態・分娩予定日などの情報を記載した表示板を掲示することで、誰が見ても牛の繁殖状況や飼養管理を把握できる状況にしている。以前より外国人実習生を雇用している。作業の簡素化に加え、今期雇用したベトナム人実習生に対しては随所にひらがなを使うなど分かりやすくしている。 また、当牧場ではセキュリティとしてセンサー管理を導入している。生乳の管理、牛の脱走、不法侵入の防止などが目的だ。

・私が就農してから
私は平成4年から酪農に従事。当時の経営方法は乳肉複合経営だった。平成19年の経営移譲から経営方針を整理し、法人化と生乳を主とする酪農専業に特化した。牛の見極めを行い若干の初妊牛を導入しながら、繁殖に最大の重きを置き、育成牛、育成頭数を増やし、いわゆる後継牛になる自家育成牛を確保することと、牛舎の改良にも取り組んだ。
平成24年には送風設備の更新、搾乳量が増加しても対応できるようにパイプラインミルカーの更新も行った。翌25年には乳量が増加しはじめ、経営改善につながった。平成28年には過去最高益になった。19年からの改善により25年頃から育成牛の頭数が揃い、繁殖の実績も上がってきた。改良した牛舎に乳牛を最大数増頭することができ、それにより経営状況が向上してきた。

・将来の経営計画
当牧場の将来の計画は都市型酪農なので限度があるが、平成32年には経産牛200頭、後継牛35頭を飼養したいと思っている。一頭あたりの搾乳量は牛に負担をかけない程度と考えている。この計画を実現するためには、①現状の種付け率を変更しホルスタイン交配率を上げ、自家産の育成牛の割合を上げること。②産次数を伸ばすこと。③現状のパドックを拡張すること。以上の3点をもって、今の場所でこれからも持続的な経営を実践していきたい。 酪農経営は私1人の考えでは到底及ばない。周りの皆さんのご理解、ご協力が必要だ。心を添えた酪農を営むことで目標に向け邁進したい。牛に優しく、人に優しく、アイデアと細やかな配慮の都市型酪農をもって、今後も地元とより一層の信頼関係を築き、目標に向かって努力していく。