第35回の発表者紹介

宮上 徹也(熊本県)

優秀賞 熊本県 宮上 徹也さん地域分担型酪農 〜搾乳牛の管理に注力〜

・熊本県菊池市について
熊本県菊池市は熊本県の北部に位置している。約280平方キロメートルに約4万9千人が住んでいる。菊池市の主な産業は農業。私たちの営む酪農をはじめとして、畜産が特に盛ん。 熊本県は西日本有数の酪農地帯で、全国で4番目の生乳生産を誇る。
菊池地域はそのうち、7万8千トンの生乳生産を担っており、泗水地区は2万6千トンを生産。JA菊池酪農部会は150戸の部会員が所属し、そのうち泗水地区が67戸。 また、酪農家以外にも肥育農家が77戸、育成農家が8戸、繁殖農家が99戸あり、とても畜産の盛んな地域。また、酪農家は後継者もたくさん残っているので、互いに刺激を受けながら切磋琢磨している。
2016年4月14日夜と4月16日未明に発生した熊本地震では多くの人が甚大な被害を受けた。この地震で、私の飼う牛も相当なストレスを受けていたようで、地震後には3頭の牛が流産。JA菊池管内では酪農家、肥育農家を含めて、19戸で19棟が全壊、2棟が半壊、6棟が一部損壊の被害を受けた。
牛の被害状況は、18頭が死亡、16頭が廃用、105頭が畜舎外に避難、47頭の肉用牛が早期出荷となった。また、JA菊池管内では290基近い餌のタンクが破損。また、県内の主要な乳業工場も地震の影響を受け、稼働がストップした。北海道をはじめ全国から輸送車両を提供していただき、熊本市内にある弘乳舎や県外の乳業工場に搬送し、私たちの生乳出荷を支えてくれた。今回の地震で全国の酪農に携わる方々や、地域の方々の絆を感じることができた。

・宮上牧場について
昭和35年に私の父が乳牛を、北海道から1頭目の牛アイダを導入したところから始まった。アイダは連続で12頭の雌牛を出産し、宮上牧場の発展に大いに貢献してくれた。そして57年経った今でもアイダの血は受け継がれており、雌種は使わずとも雌の比率が高いのはアイダのおかげであると感謝している。
昭和62年、私は高校卒業後に牛群検定員もしながら就農。このころ牛群検定員として8軒程度の酪農家を担当し、いろいろな酪農家の経営を見たことは、その後の酪農経営に非常に役に立っている。酪農家として忙しく働く中、妻とは平成14年に結婚。妻は実家が元酪農家ということもあり、保育士の仕事をする傍ら、休日には牧場の手伝いに来てくれていた。妻は平成17年から酪農経営に従事し、今では力強い酪農経営のパートナー。私たちは平成18年の牛舎新築をきっかけに父親から経営を引き継いだ。 牧場の役割分担としては、私は経営管理と牛舎管理の全般を、父は夕方の育成牛の餌やりや、水田管理全般を担当。妻は朝晩2回の搾乳、哺乳、青色申告の記帳、作成、そして、家事全般をしている。普段はなかなか照れくさくて言えないが、本当に助かっている。この場を借りてお礼を言いたい。

・さまざまな取り組みについて
牛に与える飼料は、私の牧場では株式会社アドバンスの製造する発酵TMRを給与している。アドバンスは地域の酪農家が作った会社で、コーンサイレージの作付け、収穫、TMR製造、配送を行っている。私はアドバンスの外部会員として、TMRの供給を受けるとともに、トウモロコシ畑の管理を全て委託している。

私の牧場ではコーンサイレージを1頭あたり20キロ、豆乳粕10キロを給与するメニューになっている。もともとコーンサイレージを多く使い、自給比率は高かったが、アドバンスの発酵TMRを利用するようになってからは、さらに自給飼料比率が高くなった。発酵TMRはTMRを密閉して発酵させているため品質が安定し生産性向上につながっている。
10月から本格稼働となるキャトルブリーディングステーション(CBS)はJA菊池のホルスタイン育成牛、受託育成施設。この施設は管内の6ヶ月齢から分娩2ヶ月前のホルスタイン種育成牛を受託育成する。授精適期になった育成牛は発情2回までは黒毛和種受精卵を移植し、生まれた子牛はこの施設で育成され、管内の肥育農家へ販売される。今後、酪農家、肥育農家、JA菊池が一体となり、地域で黒毛和牛、肥育素牛の安定生産、酪農家の後継牛育成の省力化に取り組んでいくことになる。私はこのCBSに30頭預託する予定でいる。
牛舎はフリーバーン方式を採用。つなぎからフリーバーンに変えてから、年齢の高い牛の持ちがよくなった。一方で、フリーバーン方式は牛床にいる菌の調節が難しいのが欠点。今年の4月にはアメリカに研修に行き、そこで見た牧場のコンポストバーンに感銘を受けた。これをきっかけに今度それを試してみたいと考えている。
菊池市は夏の最高気温が35度を超える日が多く、暑熱対策が求められる。そのような中でいかに牛舎内を冷やすかということを考えた。すでに一般的な換気扇や細霧装置は設置していたが、今年の夏を前に大型換気扇サイクロンの導入に踏み切った。サイクロンと細霧装置の相乗効果によって、格段に牛舎内の快適性は増した。
牛の飼養管理については、省力化によってできた時間を有効に使い、牛を長持ちさせるために徹底した観察を行っている。

・今後の目標について
今後の目標としては、経産牛を30頭増頭し、搾乳牛が常時100頭になるようにしたい。平均乳量の増加にも努めていきたい。3年後には1頭あたり年間1万キロ以上を生産することができるようにしたい。そして、究極の目標として、飼養管理を徹底し、牛を1頭も死なせないというのがある。いつの日か達成したいと思っている。
後継者については、子供の成長を待ってから決めたいと考えている。息子も娘も進んで搾乳や哺乳を手伝ってくれるのは親としてとても嬉しいこと。しかし、将来酪農をすることを強要することはない。ただ、私たち夫婦としてはご先祖様から育んできた財産を未来へ繋いでいきたいという思いがある。子供達が自然と酪農をしたいと思ってくれるような、魅力ある酪農を目指していきたい。
私の経営する酪農は、決して私たち家族だけでは成り立たない。農協組織、株式会社アドバンス、近隣の酪農家、それぞれが協力し、地域の中での役割を果たしている。得意分野へ注力できる環境が菊池地域にはある。今後とも、人と、地域と、手を取り合って、熊本県の酪農の発展のために努力していきたい。