第35回の発表者紹介

赤松 省一さん

最優秀賞香川県 有限会社赤松牧場 赤松 省一さん地域に根差し、地域と人を動かす。 〜うどんだけじゃない。これが香川の赤松酪農だ。〜

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・酪農への思い
私は日頃より、自社の経営はもちろんのこと、地域の農業や酪農が、また日本の農業や酪農がどのようにあるべきかを考えながら事業を行っている。
酪農は牛乳を生産する、ただそれだけの事業ではないと考えており、自ら牛を作り、堆肥を地域の耕種農家の農地へと還元し、耕種農家の作物の高品質化への手助けをし、その作物の一部がWCSという形で牛の餌になる。このような循環を地域で行っていくことが地域の農業を守り、ひいては地域の農地、日本の国土を守っていくことに繋がっていくと考えている。酪農を始めて50年近くになるが、様々な環境が整うことで、ここ数年は思いを形にすることができた。しかしまだ発展途上。これから子どもたち、従業員、更には地域の人々とともに未来を作っていくことに私自身がわくわくしている。

・香川県について
香川県は瀬戸内海に面し、瀬戸内海式気候で雨量は少ないが、温暖で災害も少ないという特徴があり、農業も盛んに行われている。人口約100万人で、面積は47都道府県の中で最も小さい県である。 酪農は現在78戸で数としては減少傾向にあるものの、近年、大型酪農家の増頭等により、生産量を維持、拡大している全国的にも数少ない県の一つで、四国一の生乳生産量となっている。

・赤松牧場について
約50年前の1968年、私が19歳の時、父の急逝のため急遽農業を継ぐこととなった。その際、1頭の乳牛がいたのが私の酪農の始まりだ。

4年後には32頭規模の繋ぎ牛舎を建設。その後バブル経済の頃、兵庫県にある牧場を視察した際、酪農に対する取り組みに衝撃を受け、100頭規模のフリーバーン牛舎を増設した。長男の就農や法人化を経て、長女の就農を期に6次産業化にも取り組み、次男も他に勤めていたが、香川に戻り就農。アメリカで視察したフリーストール牛舎を参考に、昨年最新式のトンネル換気式フリーストール牛舎を建設した。現在、経産牛、育成牛合わせて約200頭あまりとなっており、5年以内には全体で500頭体制となる予定だ。

・堆肥を通した地域連携について
酪農とは、牛を飼って、乳を搾ったり乳製品を作ったりする農業。この仕事の基本は、良い乳を搾るということ、子牛を産み育てるということ。
しかし、これ以外にも糞尿の処理をするという仕事がある。酪農家にとっては毎日排出される糞尿をどのようにするかがとても大切。この糞尿の山は「宝の山」か、「厄介者」か。そう考える場合、私は「素晴らしい宝」と捉えている。つまり、日々丁寧に糞尿の処理をし、周辺の耕種農家の意見を聞きながら良い堆肥を作ることで、堆肥を介して地域の酪農家と耕種農家とのコミュニケーションが生まれ、地域の農業が産業として活性化されると思っている。もしも「厄介者」と考えてしまうと、おざなりな糞尿の処理が行われ、周辺環境へ悪影響を与えてしまう。そこで赤松酪農においては、日々排泄される糞尿を丁寧に堆肥にし、稲WCSの生産農家や、野菜、果汁、米麦などの生産農家へ供給。稲WCS農家からは、飼料が赤松牧場へ戻ることとなり、野菜、果実、米麦などの農家は高品質な農産物を育て、一部はジェラートの原料として赤松牧場に戻ってくる。
このように地域の耕種農家と連携することで、今では堆肥のほとんどを近隣農家に供給している。赤松牧場では、堆肥の散布とならしまで行うことで、耕種農家の負担を軽減し、より円滑な耕畜連携を可能にしている。こうした畜産農家と耕種農家をつなぐ循環型農業は、目に見える景気をもたらさず、また調整の手間などからなかなか具体的な形になりにくいものだ。しかし私はこの連携をなくしては、地域における酪農家の生きる道はないと考え、自らが先頭に立って平成28年よりWCS生産組合を起ち上げ、事業として連携を開始した。

・耕畜連携がもたらすもの
まず牛舎より排泄物を堆舎へ搬入し熟成された堆肥を製造する。完成した堆肥を運搬し、農地へ搬入。それを押し広げるまでが私たちの仕事だ。耕種農家で育てられた稲WCSは刈り取られ、ラッピングされ、耕種農家の圃場から搬出。牧場に搬入・保管された後、順次牛へ給餌される。ラッピングされた稲WCSは、酪農家と耕種農家が一体となって共同運搬する。この作業が地域農業の一体感を感じさせるものとなり、ラッピングされた稲WCSが牛の餌として給餌される様子は感慨深いものがある。
この取り組みは、これに関わる全員にメリットがなければ継続できない。耕種農家にとっては、労働負担の軽減や肥料代を節約でき、また野菜・果実生産農家は、土壌改良や高品質な作物を育てることが可能となる。一方、牧場にとっては飼料コストの軽減や規模拡大時の糞尿の処理を可能にし、さらにジェラートの原料確保もできる。この取り組みにより、全員に経済的利益があることが重要だ。この連携で利益や地域の人との繋がりが生まれると考えている。これを実現するのは肥料資源の堆肥であり、いわば堆肥が耕種農家と畜産農家を結ぶ架け橋となっている。
その結果、連携の拡大でその地域の共存共栄がはかられ、農業が持続可能な産業となり、さらに農業が元気になることで、日本の国土の保全にも繋がると考えている。そして、耕畜連携から農業の地域連帯へ進化し、拡大していく。赤松牧場はその中心となり更に広がりを見せており、今では主体的に参加する農家も増えてきている。

・その他の取り組み
赤松牧場では都府県の酪農においては珍しい全頭自家育成を行っている。さらに牛の快適性を追求し、最新型の牛舎を導入した。フリーストール型でサイクロンと大型換気扇を利用したトンネル換気で牛床が乾燥し、乳房炎のリスク等を低減。また一定方向に風の流れがあることで、風量の調整が容易にでき、夏も冬も過ごしやすい環境を作り上げることができる。牛が快適に過ごすことで良い牛乳を作ることが可能になるのだ。
自家製牛乳を使ったジェラートショップも経営している。生乳生産だけをしていては消費者と直接つながることは難しいが、牛舎のすぐ向かいに牧場と消費者を結ぶ一つの窓としてジェラートショップを持つことで、牛舎自体も消費者の視線を感じることとなり、消費者の声も直接聞くことができるようになった。これにより消費者とのコミュニケーションが生まれ、消費者目線に立った牛舎環境の整備に活かされている。

・赤松牧場のこれから
現在、新しいパーラーの建設が始まっている。さらに増頭が進む中で今後必要となる育成牛舎の建設、堆肥舎の増設、飼料保管調製棟の建設を計画。それによって経産牛300頭、育成牛200頭の体制を確立できる。また今後はJGAP取得に向けた取り組みも予定している。
何より赤松牧場には後継者が3人いる。この3人がそれぞれの役割を分担することで、都府県酪農のモデルになるような牧場経営をするとともに、乳製品やレストラン事業も展開し、牧場テーマパーク「赤松マルシェ」のプロジェクトまで家族で語り合っている。 赤松牧場は家族、従業員一丸となって、このプロジェクトの実現を目指している。
かの二宮尊徳の言葉に「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉がある。私はその言葉を常に胸に抱きながら経営を行う。当たり前のことを当たり前にやる。簡単なことのようだが、実際には日々実行するのは難しいもの。しかし、これが赤松酪農の全てであると考えている。