第36回の発表者紹介

田畑 修一さん (大分県)

大分県 田畑 修一さん (大分県)「地域とともに歩む酪農経営

・大分県杵築市について
九州北東の国東半島の付け根に位置し、杵築市を含む宇佐地域は FAOから世界農業遺産に認定された農業の盛んな地域。杵築市は酪農家戸数が12戸、飼養頭数1,200頭。生乳生産量は6,929トンで、県内でも有数の酪農生産地帯。若い酪農家が多いのも特徴。

・たばた牧場について
父が昭和54年に乳牛4頭を導入したのが酪農の始まり。平成4年に和牛も導入し、現在は酪農と和牛生産の複合経営。乳用経産牛51頭、和牛繁殖牛23頭を飼養。
家族は妻、子供4人と父母。私が酪農と和牛の作業全般、繁殖管理など。父が堆肥処理、母が搾乳、妻が哺乳と給餌を担当。飼料作物関係は父、私と妻。敷地内で別経営の和牛繁殖を行っている弟も一緒に行っている。

・飼料給与体系について
5年前に飼料高騰から稲WCSを中心としたメニューに組み換えた。稲WCSは耕種農家との連携で収穫。収穫面積は年々増加傾向で、今年は3つの集落営農組織と2軒の農家と契約し、約16ヘクタールを収穫予定。これらの耕種農家とWCSと堆肥を交換している。麦わらは4つの集落営農組織と連携し36ヘクタール収穫。稲WCSと麦わらは弟の牧場と折半。稲WCSは搾乳牛に、麦わらは和牛繁殖牛、乾乳牛、初妊牛に給与している。
収益性の変化を評価した結果、約300万円の増益となった。さらに生産寿命の延長という効果もあった。経産牛の平均年齢は5.5歳、経産牛平均産次数は3.7産と高くなった。この給与体系で病気が大幅に減ったためだ。
牧草地では春はイタリアンライグラス、夏はミレットを収穫。最近では休水田を利用した転作による牧草生産も増加傾向にある。昨年より乳酸菌を散布し品質が向上。自給粗飼料はすべてを分析に出し、大分県酪農協に飼料設計してもらう。

・性判別精液の利用と和牛受精卵(ET)の活用
後継牛の確保を確実に行うため、乳牛の人工授精(AI)はほぼ100%性判別精液を利用。また和牛を活用し、年間20回ほど受精卵を採卵。採卵用の精液の半分は、出生した和牛の雄率を上げるために性判別精液の雄を使用。採卵された受精卵は主に経産牛に移植している。AIを性判別精液にすることで、後継牛を得るための授精頭数が減り、残りの牛にETすることで和牛産子が増え、経営の一助となっている。AIとETの比率は、判別精液が40% 、ETが50%、残りがF1だ。

・繁殖システムについて
優良なメスを選抜し2〜3回性判別精液でAIを行い、つかない場合は和牛受精卵のETに切り替える。年間目標頭数に達した場合は、よほど優秀でない牛以外はETを行う。それでも妊娠しない場合はF1に切り替える。優良な血統を我が家の後継牛として残し、販売する牛を和牛にすることで安定した収入を得ている。

・カウコンフォートについて
牛舎の壁にファンを取り付け、外気を強制的に取り込み、牛舎の中に風の流れを作っている。また2年前に畜産波板を使い屋根を二重構造にした。空気層による断熱効果で牛舎内温度を下げている。屋根の上には散水も行っている。パーラー内ではソーカーを自前で作り、搾乳中に牛体を冷やす。子牛のハッチでも散水を行い、更に換気扇で強制的に換気している。
冬季の寒冷対策は、カーフジャケットの着用。今年は乾燥機を導入して出生した子牛の事故軽減に努めていく。
牛舎内に自前でカメラを設置し、スマートフォンで分娩や行動を確認。夜間に濃厚飼料の給与することで8割が明るい時間に分娩するようになり、事故も激減した。

・共進会への参加
牛群改良を目的に共進会に意欲的に参加している。就農した頃、現在のホル協の会長から「共進会に出してみないと牧場のレベルは分からない」と言われたのがきっかけ。おかげで3年前の全共にも出品でき、さらに改良、飼料管理に力が入った。

・酪農の理解醸成活動について
18年前より大学生を受け入れている。きっかけは私の大学進学。農学部でもほとんどが非農家出身。同じ世代がこんなにも農業に理解がないのかとショックを受け、農業に興味のある友人とサークルを立ち上げた。我が家に泊まり込み体験をするようになり、延べ約170人の学生を受け入れた。
9年前に酪農教育ファームの認証を受け、地域の子どもたちから一般の方まで、受け入れが年間約300人、出張体験が約500人となっている。最初は牛を怖がり、クサイの一辺倒だった子供たちも、体験を終える頃には「おいちゃん!またくるけん!」と笑顔で帰っていく。驚くのが大人の反応。子供たちよりも興味津々な方が多く、「さらに牛乳が好きになった」「食べることの大切さを考えさせられた」などの感想も多い。
3年前に大分県の食育推進委員も委任された。今年は全国食育推進大会が大分で開催され、子牛のふれあいを行った。これからも牧場というフィールドを教育の場として提供し、多くの人に酪農や牛乳を理解してもらい、そして面白さを伝えていきたい。

・農福連携の取り組み
3年前から杵築市と連携して、県内の養護施設の子供たちを受け入れている。将来杵築市で農業を、選択肢として農業を、という就労支援の一環で始まった。子供たちは、なかなか大人たちとうまくしゃべれず、 施設の人としか交流がない、とのこと。最初は戸惑いもあったが、牧場に来るといつの間にか笑顔になり、率先して仕事をし、しゃべるようになる。それは施設の方も驚くほどで、あんな顔するのを初めて見た、牛が人を繋いでくれた、と感動してくれる。子供たちも帰る頃には「また来たい」「酪農、面白い」と言ってくれる。我が家での体験が将来のきっかけになってくれればと思っている。

・組織活動について
若手の酪農家が多いので勉強会を立ち上げた。全国より講師を招き、牧場検討会や座学を行っている。毎月1回、経営検討会で乳量や乳質、経費などを比較し意見交換。さらに月1回バルクスクリーニングテストを行い、乳質も気を付けている。

・今後の目標
親のリタイアや子供たちとの時間の確保のために、省力化が必須。パーラーの更新や自動給餌器の導入、哺乳ロボットの導入を計画している。収穫機械の大型化による作業の効率化と、収穫適期が長いWCS品種の導入による収穫労働力の平準化も検討している。
また、乳量向上のために、優良性判別精液の活用によるさらなる牛群改良と、細やかな飼料分析と設計、自給粗飼料の品質向上に取り組んでいきたい。 そして、TPPやEPAなどに対応するさらなるコスト低減、収益性の向上を目指す。そのために耕畜連携で飼料用米の一形態であるソフトグレインサイレージの利用を検討。乾燥させずに加工でき、耕種農家は収入増加と農地の維持、畜産農家は安価な穀類飼料で飼料費の削減が図れる。
これからは酪農も耕種農家も共に潤うwin-winの関係を築いていかなければならない。国産飼料で元気な牛とおいしい牛乳を生産できるよう頑張っていく。酪農経営や、酪農教育ファームの取り組みで多くの人と繋がり、さらなる大きな輪を作り、地域と共に、多くの仲間と共に、酪農って面白いと思える、そして思ってもらえる酪農家を目指していきたい。