研究ニュース
<胚の保存技術の改良・開発>
性判別済み乳牛凍結胚の供給実証試験

期 間:平成18年10月〜平成20年3月

担 当:出田篤司、岩佐昇司、青柳敬人



目 的:

 改良効果のある乳牛胚の国内流通することで、ブリーダー側にとっては、牛乳消費が停滞し、乳価等での所得向上が厳しい中で、個体販売とあわせて、胚の販売収入等の所得向上が期待される。また購買側にとっても優良遺伝資源の導入により、改良効果からの牛群向上が図られコスト低減等に結びつくことで酪農・畜産業界のさらなる発展が期待される。



試験研究の項目別内容:

(1)ホルスタイン種雌凍結胚の場内移植実証試験

 A:ウシ性判別済み体内胚の磁場環境下凍結と通常凍結の場内移植比較試験
移植試験実施場所:全農ETセンター (ET研究所)
目標受胎率:通常凍結では50%前後であるが磁場環境下凍結法で65%以上(妊娠日齢60日)を目指す。
本試験から得られた妊娠牛については市場にて実証販売する。



結果

  磁場環境下で凍結された牛性判別胚の受胎率を表1に示した。磁場環境下で凍結されたグレード1胚の受胎率は30日目で79.4%、60日目で76.5%であったのに対し、対照区はそれぞれ70.8%、58.3%で、60日目受胎率で18ポイントの差があった。しかしながら、グレード1.5の胚を供試した場合の磁場環境下凍結の有効性は観察されなかった。また、30日目では受胎が確認されたが60日目では不受胎と判定された早期胚死滅率は、磁場凍結区が5.7%と対照区(14.3%)と比較して低い値を示している。一般的に性判別胚は、バイオプシー操作により物理的ダメージを受けているため早期胚死滅率が高めであることが知られている。以前、我々は磁場環境下で凍結された胚の融解後のアポトーシス率は対照区と比較して有意に低かったことを報告した。この融解後の低アポトーシス率が、早期胚の死滅率を減少させているかもしれない。これらのことから、性判別時に高品質胚のみを選抜することで、受胎性の高い性判別凍結胚を供給できる可能性が示唆された。



表1. 
磁場環境下で凍結された牛性判別胚の受胎率 表1