研究ニュース
<コスト低減課題>
過剰排卵処置開始前の主席卵胞吸引除去が
採卵成績におよぼす影響について

波山功・毛利清輝・酒井伸一・岩佐昇司・竹内素・大野喜雄・出田篤司・青柳敬人

試験期間:平成19年4月〜平成20年3月



目 的:

 過剰排卵処置前の主席卵胞の吸引除去は、卵胞波を同期化させ、その後の採卵成績を向上させることが報告されている。一方、大卵胞の吸引除去は採卵成績に影響を及ぼさないという報告もある。さらに吸引する卵胞の大きさと採卵成績の関係については詳細な報告はみあたらない。そこで、実験1として、過剰排卵処置直前に卵巣に存在する最大卵胞の直径と採卵成績、排卵率の関係について調査した。また実験2として、過剰排卵処置開始24時間以内に大卵胞を吸引除去した場合の採卵成績および排卵率を調査して、採卵成績の向上につなげることを目的とした。



試験研究の項目別内容:

 全農ETセンター(ET研究所)に繋養している黒毛和種経産牛20頭およびホルスタイン種未経産牛10頭を試験に供した。過剰排卵誘起処置(以下SOV)は全農ETセンター(ET研究所)の定法で行った。実験1ではSOVの前日に、7.5MHz超音波診断装置を用いて最大卵胞の直径を測定し、3グループ(G1:2〜9mm、G2:10〜12mmおよびG3:13mm以上)に分類した。また小卵胞数(2〜6mm)も計測した。実験2では過剰排卵処置の前日に、超音波画像を見ながら卵巣に存在する最も大きな卵胞を吸引除去すると同時に小卵胞数を計測した。人工授精の7日後、胚回収を行い各グループの回収卵数および小卵胞数に占める回収卵数(排卵率)を調査した。



結果

 実験1:SOV 開始前日の小型卵胞数は、G1〜G3のグループ間で差はみられなかった。G1の平均回収卵数(19.2個)は、G3(9.1個)と比較して多い傾向にあった(P<0.1、図1)。また、G3の平均排卵率(42.6%)はその他の区と比較して低い傾向にあった(G1:77.8%、G2:70.9%、P<0.1、図2)。 実験2:SOV開始前日に存在する13mm以上の卵胞を吸引した牛群の平均回収卵数および排卵率はそれぞれ16.7個、88.0%であり、実験1のG3の成績と比較して改善される傾向にあった(回収卵数:P<0.1、排卵率:P<0.01、図1、図2)。

 SOV前日に直径13mm以上の大型卵胞の存在がSOV後の小卵胞の発育または排卵に悪影響を及ぼしている可能性が示唆され、大卵胞の吸引除去が採卵性を向上する方法の1つであると推察された。



図1.
過剰排卵処置直前の最大卵胞の直径が回収卵数に及ぼす影響図1


図2. 
過剰排卵処置直前の最大卵胞の直径が排卵率に及ぼす影響 図2