1972→2022 農協牛乳50年の歩み

酪農家と食卓をつなぐ「3つの誓い」

農協牛乳は、1972 (昭和47) 年6月1日、全農 (全国農業協同組合連合会)の設立を記念するシンボル商品として、発売されました。

その当時、牛乳といえば、毎朝、配達されてくるもの。一家の軒先には牛乳受け箱が置かれ、牛乳配達のガチャガチャという牛乳瓶の音が昭和の朝の風物詩となっていました。学校の給食には必ず牛乳が添えられ、育ち盛りの子供たちの喉を潤しましたが、残念ながら中身は乳脂肪分を調整した調整乳や加工乳。子供たちの健康を育んできたとは決して自慢できない代物でした。

農協牛乳の歴史は、そんな時代に幕を開けます。

「3つの革命」で牛乳づくりを変える

1972年2月、「全農(全購連と全販連が合併)の設立時(同年3月)に、新しい農協の幕開けにふさわしいシンボルとなるような独自のブランドをつくろう」という話し合いがもたれます。特に着目されたのが、牛乳です。当時、食生活の欧米化に伴う乳製品の需要拡大に比べて牛乳そのものの需要は低く、また牛乳の原料となる生乳の価格も低く抑えられていました。

「農協の連合会にふさわしく、酪農家の搾った生乳を乳業会社に卸すだけではなく、自分たちの手で牛乳をつくり、自らの手で売り出そう」

強い決意の下、全農が設立した全国農協牛乳直販株式会社は、新たな牛乳需要を開拓するための「3つの革命」を提唱します。

(50周年記念動画 プロジェクトN より)

1. 品質革命
━ 成分無調整・生乳100%使用

なんといっても一番おいしい牛乳は、すくすくと育った乳牛から搾ったばかりの“生乳”です。酪農家は、そのために丹精込めて健康な乳牛を育てます。ところが、当時の厚生省省令では「脂肪分の含有量が3.0%あれば牛乳の名称で販売できる」と定められていたため、多くの乳業会社が原料となる生乳から脂肪分を抜き取り、他の乳製品に転用。乳脂肪分が低い加工乳が「成分調整乳」として販売されていました。
自然の恵みをそのままお届けすることが、「酪農家の想い」に添うことになります。
農協牛乳は、信念をもって「成分無調整・生乳100%使用」を宣言しました。

2. 流通革命
━ 量販店直販ルートの開拓

当時は、既成の乳業メーカーが整備した宅配による牛乳販売形態がすっかり定着していました。新参者の牛乳は、新たな販売ルートを開拓しなければなりません。新鮮な牛乳を安定的かつリーズナブルに消費者に届けるためには、新たな流通の仕組みが必要です。
全農直販は、1970年代から台頭してきたスーパーマーケット等に着目。量販店に牛乳を直接卸し、消費者が店頭で手に取って買えるようにしました。

3. 容器革命
━ 1ℓ 紙容器の採用

主婦が買い物袋に入れるとなると、牛乳瓶では重すぎます。持ち運びの安全性も考慮し、容器には1ℓ 紙パックを採用しました。

(50周年記念動画 プロジェクトN より)

ここに、酪農家が生乳を搾り、“酪農と乳業の共生”を理念とする協同乳業が殺菌などの最低限の加工処理を行い、全農直販が販売するという、全農系組織が結集した牛乳づくりの体制が確立。
1972年6月1日、首都圏のスーパーなどの量販店で農協牛乳の直販が開始されたのです。

安全・安心を求める消費者と心を結ぶ

「成分無調整・直販・紙パック」という斬新な提案を掲げた農協牛乳は、安全・安心な牛乳を求める消費者から歓迎され、3年間の販売目標120万本を発売2年目にして達成します。

発売当初は、系統の協同乳業、津久井農協、栃酪、日酪等の工場を総動員し、生産を間に合わせたものの、販売量は飛躍的に増加。全国的な規模の需要増に対応するべく、全農は1985 (昭和60) 年に総合基幹工場を整備しています。

しかし、道は決して平坦だったわけではありません。
「成分無調整」牛乳は、当然、成分を調整する既成メーカーの反発を受けますし、供給される生乳と商品の需要の調整が求められます。生ものの生乳を無調整で扱うからこそ、需給の調整が必要になるのです。そして、系統組織が互いに協力し合える農協牛乳だからこそ実現できたわけです。

1978 (昭和53) 年。全農は正式に酪農部を設置し、全国的な生乳の広域流通体制を整備し、需給調整機能を強化します。それは、“本当においしい牛乳を届けたい”酪農家の想いと、“安全・安心でおいしい牛乳を飲みたい”消費者の気持ちをひとつにつなげた瞬間でした。

「3つのこだわり」で
酪農家と食卓をつなぐ

時を経て1995 (平成7) 年、ある大手乳業メーカーが「成分無調整」に関するメッセージ広告を発表しました。他のメーカーもナチュラル志向の商品を相次ぎ開発していきます。発売当時、牛乳業界から猛反発を受けた農協牛乳の主張は、四半世紀を経て業界の標準規格となったのです。

今、人々は毎日の食材をスーパーマーケットやコンビニエンスストアで揃え、「成分無調整」の紙パックの牛乳をあたりまえのように買い物かごに入れていきます。
「成分無調整・直販・紙パック」の「3つの革命」が日本の牛乳市場を大きく変えた今でも、農協牛乳はその歩みを止めることはありません。

新しい視野から日本の牛乳市場を変革して牛乳消費の底上げにも寄与し、日本の酪農生産基盤を支え続けるとの強い想いを持って今日に至りますが、酪農家の想いを届ける農協牛乳は、自然のおいしさをさらに引き出し、新たな価値を創造する取り組みを続けてまいります。

2016 (平成28) 年、協同乳業は牛乳業界で初めて電気エネルギーを活用した「おいしさそのまま新殺菌製法」交流高電界殺菌製法を採用。生乳本来のコクと香りを残しながら、すっきりとした後味に仕上げることに成功しています。

にっぽんの酪農家が1年365日手塩にかけ、じっくり育んだ自然の恵み“生乳”。その自然の恵み“生乳”をそのままに活かし、生乳本来のおいしさを大切に伝え、酪農家の想いと消費者の想いをひとつにつないでいく。牛乳づくりを変えた「3つの革命」を引き継ぐ「3 つのこだわり」を大切にしながら、農協牛乳は、たゆまぬ歩みを続けてまいります。

農協牛乳50年の歩み

1972
全農 (JA) 設立
全農直販から農協牛乳を販売開始
1978
全農酪農部を新設し、全国的な生乳の広域流通体制を整備
1985
総合基幹工場(全農直販)を整備
2016
「おいしさそのまま新殺菌製法」を採用
2022
農協牛乳発売50周年を迎える