新着情報

GAPの認証取得までの流れと岐阜県での取り組み

2017年12月18日
営農対策課

<GAPとは>
今春以降、日本農業新聞の紙面を賑わしているキーワードに「GAP」があります。
GAPは「Good Agricultural Practice」の頭文字をとったもので、直訳すると「良い農業の取り組み」ということになります。
FAO(国連食糧農業機関)の定義
農業生産の環境的、経済的および社会的な持続性に向けた取り組みであり、結果として安全で品質の良い食用および非食用の農産物をもたらすものである

農林水産省の定義
農業生産活動を行う上で必要な関係法令などに即して定められた点検項目に沿って、農業生産活動の各工程の正確な実施、記録、点検および評価を行うことによる持続的な改善活動である

<今、なぜGAPなのか>
何故、GAPが話題になっているのか。それは2020年に東京で開催される「オリンピック」「パラリンピック」において、組織委員会が調達する物品の調達基準を示したことに関係します。 農産物の調達基準は次の①~③のとおりです。
①食材の安全を確保するため、農産物の生産にあたり、日本の関係法令に照らして適切な措置が講じられていること。
②周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動を確保するため、農産物の生産にあたり、日本の関係法令などに照らして適切な措置が講じられていること。
③生産者の労働安全を確保するため、農産物の生産にあたり、日本の関係法令などに照らして適切な措置が講じられていること。
この3項目からなる調達基準に適合すると認められるのは次の3点です。
・JGAP Advance(現在のASIA GAP:2017.8発効)の認証を受けた農産物
・GLOVAL G.P.A.の認証を受けて生産された農産物
・農林水産省作成の「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」に準拠したGAP(県GAP:2017.11発効)に基づき生産され、都道府県など公的機関による第3者の確認を受けた農産物
岐阜県産農産物を全世界にPRする絶好のチャンスである東京2020大会に利用してもらうためには組織委員会が認めるGAPの認証(確認)取得が必要となるのです。

<GAPを実践する>
農業を長年営んでいると、自らの判断で良いと判断し、慣れによる作業を行いがちではありませんか。今まで、事故もなく、問題も発生しなかったから、適正な作業と思ってしまう。しかし、それは、幸運にも問題が発生しなかっただけで、他の人は「それでいいの?」と感じていないでしょうか。実際には、農産物での農薬残留基準値超過、異物混入による回収、農薬使用中の死亡事故や中毒、河川・湖沼での魚などの水生動植物の大量死、トラクターなどの転落死亡事故などが毎年多数報告されています。このように農業には多くのリスクが潜んでおり、それに気づいていないだけです。

GAPは上記(調達基準の①~③)のように、農業生産活動の全工程(農作業全般)に渡って潜んでいる農産物の安全性、環境・生態系、および労働安全・人権擁護を脅かす危険性や要因を洗い出し、それらを無くしていくことです。
具体的には次の①~④のとおりです。
①改善に向けた農作業の計画(チェック項目)を定める。
②チェック項目に沿った作業の実践とその記録。
③作業後に記録を点検・評価する。
④更なる改善点、新たな課題を洗い直して次の作付に役立てる。
この手法は農業におけるPDCAサイクルそのものです。
PDCAサイクルとはPlan(計画立案)→Do(実践と記録)→Check(点検・評価)→Actoin(見直し・改善)→Plan・・・をくり返すことによって業務を継続的に改善することです。

GAP実践のキーワードは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾・習慣」の5Sです。GAPを実践することで結果的に「食品安全が確保できる」「環境保全ができる」「作業者の安全が確保できる」「人権・福祉に配慮した労務管理ができる」「適切で信頼される農場(経営)運営ができる」などのメリットがあり、これが持続可能な農業であり、農業(農業経営者)の社会的責任を果たすことになります。

<GAPの認証を取得する>
実践している農業生産工程がそれぞれのGAP運営主体が定めた適合基準(改善目標)に達しているかの審査を受けて認証を取得します。認証を取得するためにはGAPの指導員(コンサルタント)の指導の下、GAPの適合基準の理解、それぞれの作業の手順書の作成、圃場や農業倉庫、調製作業室などの整備などが必要となります。その後、審査会社に審査を申請します。審査は書類の確認だけではなく審査員による面接(聞き取り)も行われ、指導や審査には相当の経費が必要です。第三者の審査を経て認証を取得することで、良い農業の実践の見える化が可能となります。見える化により、食品流通・消費者の方々に安心感をアピールでき、選ばれやすい農産物となります。実際に大手スーパーや食品メーカーの中に、仕入れる農産物はGAPの認証取得を条件とする動きが拡大しています。また、海外輸出の際には取引先から認証取得が求められます。

聞き取り勉強会の風景

<岐阜県のGAP推進方向>
東京2020大会を契機に全国的にGAPの認証取得の機運が高まっています。農林水産省は2030年までにほとんどの産地が国際水準のGAP(ASIA GAP、GLOVAL G.A.P.)を実践することを目指しています。岐阜県では「東京2020大会を契機に、県内農業関係機関が一体となり、GAPなどの認証取得と首都圏での農畜水産物のPR活動を行うことで、県産農畜水産物の利用促進を図る」ことを目的に、下記を会員として岐阜県「東京オリ・パラ」県産農畜水産物利用促進協議会を設立しました。

岐阜県は県産農産物が「選ばれる産地」となるために、次の2点を目指します。
・GAP(ガイドライン水準の県GAP)の実践者の増加(~2020)
・国際水準GAPの浸透(2021~)

<岐阜県GAP>
県ではGAPの取り組みを広く浸透させるため、東京2020大会の農産物調達基準にも適合する農林水産省作成の「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」に準拠した「岐阜県GAP(岐阜県版農業生産工程管理基準)」を2017.10.25に策定し、岐阜県GAPの実践を確認するための「岐阜県GAP確認制度」を創設し、2017.11.1から運用を開始しました。ガイドライン準拠の岐阜県GAPは国際水準のGAPに比べ、資材仕入先の評価や責任者配置などの農場経営管理、強制労働の禁止などの人権保護分野を除き、食品安全、環境保全、労働安全に絞り込んだ管理項目(チェック項目)が設定されています。また、国際水準のGAPやJGAP(旧JGAP Basic)の認証取得には相当の経費が必要ですが、岐阜県GAPの審査および確認に要する経費は県が負担すると定められています。岐阜県GAPは取り組みやすいGAPですが、国際的に認められたGAPではなく、さらに確認の有効期間は2020年12月末日まで、確認制度は2020年度中に「見直すものとする」とされています。

<岐阜県JAグループの取り組み>

JAグループは、従来より消費者の皆様に安全な農畜産物を提供するため、農薬の適正使用と農畜産物の生産履歴記帳を徹底してきました。GAPについては生産者の経営力向上、生産現場改革に不可欠なツールであり、流通関係者からもその取り組み要請の声が高まると想定されることから、各生産部会などについて、段階的にGAPの取り組みを進めることとしています。現在、GAPに取り組んでいない部会などでは、食品安全確保を主とした「JA独自GAP」の生産活動に取り組み、「JA独自GAP」が定着している部会などや、環境保全・労働安全を盛り込んだ独自のGAPに取り組んでいる部会などは「岐阜県GAP」に取り組み県の確認を受け、最終的には国際基準のGAPに取り組み、認証取得を目指すこととしています。GAPの実践、認証取得を促進、取得経費を削減するため、県とJAグループはいろいろな補助・支援事業を行うとともに、GAP指導員の育成を進めています。