潮風をたっぷり浴びた紅あずまの産地

茨城県は生食用かんしょ(さつまいも)の栽培面積、生産数ともに日本で一番のさつまいも王国です。県内では特に鉾田市、行方市が産地として有名ですが、大洗町も紅あずま栽培では引けをとりません。
大洗町は水戸から南東に12km、茨城県の太平洋岸のほぼ中央にあり、汽水湖の涸沼や那珂川、涸沼川に面した、冬は暖かく夏は涼しい穏やかな気候に恵まれた土地です。産地は、鹿嶋方面に向かう海岸の丘陵地にあり、海からは潮風が吹き、火山灰土の赤土で水はけが良く、さつまいも栽培にはぴったりです。特に大洗産は鮮やかな赤い色の皮で甘みが強く繊維質が少ないことからホクホクとした食感が楽しめると人気です。
キュアリング処理で
安定した品質を消費者へ
現在かんしょ生産部会では、17名の部員が紅あずまの栽培に取り組んでいます。部会では、一年を通して安定した品質を消費者へ届けるために、キュアリング定温・低湿度貯蔵施設を整備しました。芋に約30度の蒸気を70時間あてて施設内で蒸し、その後13~15℃に冷まして貯蔵するキュアリング処理をおこなうことで、掘りあげる際についた傷や表皮の下にコルク層が形成され、病害への抵抗性が高まり長期貯蔵が可能になります。それにより7月から翌年4月辺りまで東北地方や甲信越、茨城県内の市場へと安定した出荷ができるようになりました。
本来さつまいもは、掘り立てよりも貯蔵した芋の方が美味しいと言われています。
紅あずまは、ホクホクとした食感で濃厚な栗のような甘みと香りが楽しめるのが特徴。
キュアリング処理を施すと芋のデンプン質が糖化しさらに甘みが強くなるというメリットがあります。かんしょ部会では、ほとんどの方がこのキュアリング処理をおこなっており、そのため、大洗産は特に甘くて美味しいと各市場で評判だそうです。
また、芋の切り口から白い液体がでているものがありますが、これはヤラピンと呼ばれる成分で、胃の粘膜保護や腸のぜん動運動を促す効果があるそうです。
47年の経験から生み出したおいしさ
代々、さつまいも農家の家系に生まれた関さんは、高校卒業とともに本格的に農業の道へ進み、今年で47年の大ベテラン。現在は、奥様と二人で紅あずまの栽培をおこなっています。
世間では数多くの種類のさつまいもが出ていますが、関さんは昔ながらの紅あずまにこだわって作り続けています。
有機肥料をたっぷりと使用した関さんの圃場では定植時にマルチを三角に切り、つるを寝かせて植える『モグラ植え』という方法を十数年前から採用しているそうです。モグラ植えの利点は苗が土に潜っているため風の影響を受けにくいこと。そして用意する苗の本数が少なくてすむのに、形のいい芋が多くできること。一つの苗で大きいサイズが5・6本収穫できるそうです。
以前はつるを地面に垂直に植える従来の方法にしていましたが、風や雨の影響で苗が弱ってしまうことがあったそうです。「両方のやり方をやってみて断言はできないけど、モグラ植えのほうが出来がよかった。」と仰います。以前関さんは、遠方の知り合いに自らが栽培した紅あずまを贈ったところ、こんなに美味しいものは食べたことがない、幻の芋だと喜ばれたことが印象に残っているそうです。「丹精込めて作った自慢の芋を褒められるのはとても嬉しい」と笑っていらっしゃいました。
農作業の機械化と後継者問題
かんしょ部会の平均年齢は約65歳。農林水産省が平成27年に発表した全国の農業従事者の平均年齢67歳に比べわずかに若いですが、それでも年を追うごとに農作業が大変になったと関さんはいいます。収穫時の1つのコンテナの重さは約20kg。1日で200ケース近いコンテナを手作業でトラックに積み、ご自宅まで運ぶそうです。実習生やパートさんを雇う農家さんもありますが、関さんのお宅では奥様と二人で頑張っておられます。
近年、土地を耕し、畝たてとマルチ張りを一緒におこなう耕運機、掘りあげから選別・コンテナ詰めの一連の作業が乗ったままできる小型ポテトハーベスタ(自走式収穫機)、くぼみの泥まで綺麗に落とせるさつまいも洗い機(高圧洗浄機)など多種多様な農業機械が開発され、農家さんの負担を減らしています。関さんは「機械のおかげで随分負担が減り助かっているが、それでも後継者問題など不安が残る」といいます。「今まで自信をもって美味しいものを作ってきた。その技を引き継いでくれる後継者を育てられればいいんだけど。」と、さみしくも思っているそうです。


ふるさと納税謝礼品と加工商品への展開
大洗町では、ふるさと納税謝礼品の1つとして紅あずまの箱詰めを贈っています。
食べやすいMサイズの大きさに揃った良質な芋が約3kg。なんと各農家さんのお宅で、一本一本丁寧に選んで箱詰めしているそうです。
また、町を歩くと、紅あずまを使った加工商品に数多く出会えます。その種類はソフトクリームやポテトスティックなどその場で食べられるものから、干しいもなどお土産に喜ばれるものまでさまざま。紅あずまを使った本格芋焼酎は、町内の優れた農産品や水産品、加工品に贈られる「大洗ブランド認証品」に選ばれています。
常圧蒸留という原料の風味と旨みをそのまま残すことができる伝統手法を用いり、芋の甘みが生きた濃厚な香りと味ですっきりとした飲みやすさが特徴です。地元の酒店はもちろん、直売センターでも取り扱っていますのでお土産にいかがでしょうか。
関さんに紅あずまの美味しい食べ方を教えてもらいました。ふかし芋はもちろん、天ぷらや横幅1cmほどのスティック状に切り、油で素揚げしたポテトスティックがおすすめとのことです。
太平洋からのミネラルたっぷりの潮風が育てた、甘みの強いJA水戸 大洗地区の紅あずまをどうぞ味わってみてください。
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