手しおにかける

~第6回「和牛甲子園」で今年度の取組みを発表【中央農業高校②】~

2023年02月07日

JA全農は、1月19日(木)・20日(金)の2日間に渡り、東京・港区において第6回「和牛甲子園」を開催し、約3年振りの実開催となった今回、過去最多となる全国23道府県40校が出場しました。

「和牛甲子園」とは、全国の高等学校で和牛を育てる高校生、その名も「高校牛児」たちが、和牛の肉質と日頃の取り組みを競い合う大会で、JA全農が「将来の担い手候補である高校生の就農意欲の向上」と「日本各地で同じ志を持つ高校生同士のネットワークを創出し、意欲と技術の向上を図る」ことを目的に開催しています。

本県からは、富山県立中央農業高等学校が6年連続で出場しました。

今回は、和牛甲子園に出場した生徒たちの様子や、今年度の取組み内容等についてご紹介します。


大会本番2日前、中央農業高校では大会出品牛の搬出作業が行われていました。

トラックへの搬入を前に、生徒は出品牛をブラッシングしていきます。
2年間、たっぷりの愛情をかけて育ててきた牛。色々な思いを込めて丁寧に作業を進めます。


▲出品牛をブラッシングする生徒

ブラッシングを終えると、今度は先生・生徒全員で力を合わせて牛をトラックの荷台へ。
前から牛をひっぱり、後ろからは牛を押し上げ、トラックの荷台に牛を誘導します。
牛は、約600kgの体重で一生懸命踏ん張り抵抗しますが、負けじと皆で押し上げつづけ、、


▲踏ん張って抵抗する出品牛「ふくさわ9114」

無事、トラックの荷台に上がってくれました。

生徒たちは和牛甲子園への意気込みも込め、元気なエールで出品牛を会場へと送り出しました。



こうして搬出作業を終え、迎えた和牛甲子園当日。
生徒たちは富山から新幹線に乗り、はるばる東京都・港区にある品川グランドホールへ。

今回、中央農業高校の生徒たちは、全国から集まった40校を代表して開会式の選手宣誓をするという大役に任命されていました。本番前、舞台裏では先生の指導のもと入念なリハーサルを実施。


▲本番前、入念に選手宣誓の練習をする先生と生徒たち

大会が始まると、会場は静粛な空気に包まれ、生徒たちの緊張が高まります。


そして、司会者より「選手宣誓 富山県立中央農業高校」と学校名が読み上げられると、身を引き締め壇上へ向かう生徒たち。


▲名前を呼ばれ、いざ壇上へ


関係者を前に横一列に並び、右手をまっすぐと頭上に掲げ、
『宣誓 我々は牛児マンシップにのっとり、3年ぶりの実開催のためにご尽力いただいた皆々様への感謝と、出品されたすべての牛に鎮魂と激励の意を込め、今後も若さと向上心を武器に牛とともに青春を謳歌することを誓います』



静粛な空気の中、全国から集まった高校生たち・関係者などの大勢の方の前で、しっかりと選手宣誓を務めあげました。


大仕事を終え安堵の表情を見せるもつかの間、開会式が終わると、次は大会審査員による各学校の審査結果発表に映ります。

本大会の審査方法は、日頃の取り組み内容を評価する「取組評価部門」と、枝肉の肉質を評価する「枝肉評価部門」の各部門でそれぞれ審査をおこない、2部門の合計点数で「総合評価部門」の最優秀賞1校を決定します。


まずは、「取組評価部門」の受賞校の発表です。
各学校は事前に、今年度の取組内容を7分程度の動画にまとめて提出しており、その動画に対する審査結果が当日、審査員の講評とともに発表されました。
(各参加校の体験発表会動画は、和牛甲子園ホームページからご覧いただけます。
和牛甲子園HP
https://wagyukoushien.com/main/koushien04/torikumi/



今年、中央農業高校の生徒たちは
校地区連携~ZEROから始める、地域酪農家との牧草地大改造~】と題し、同校敷地内にある牧草地の更新の取組みについて発表しました。


以下で発表内容を一部要約してご紹介します。
『現在、中央農業高校では、富山県酒造組合から提供いただいている酒粕を給与した富山県の新ブランド牛である「酒粕育ち」の肥育や地元スーパーでの本校産牛肉の販売など、地域との連携を濃密なものにするための取り組みを数多く行っています。

農業界では「耕畜連携」と言う言葉が使用され、畜産農家の堆肥を稲作農家や野菜農家の田畑で使用し、出来上がった稲わらなどを畜産動物のエサにするなど、循環型農業の基本型のひとつとされています。私たちはより具体的に、「学校と地域農家の連携」を深めることを目的とし、それぞれの漢字を当て字にした造語『校地区連携』を新しい取り組みとして実践することにしました。

2021年4月、2年生に進級・畜産専攻に所属し、何気なく目にした牧草地には、自分たちが思い描く牧草が生えおらず、雑草ばかりのように見受けれられました。先生に相談したところ、「確かに、最近は牧草の種を播いていない。雑草が多くなってきているのは把握しているが、学校にある農業機械だけでは、なかなか更新することが難しい」とのこと。


▲更新前の同校の牧草地

2021年11月、富山県有数の酪農家である舘さんと出会い、舘牧場の牧草ロールの完成度の高さに感動した私たちは、「こんなロールを自分たちで作りたい!」と、思い切って舘さんに声を掛けると、「美しい牧草を育てるためには生きた土作りから始めなくてはならない」とのこと。さらに、「生きた土」を作るためには様々な微生物や、栄養成分、また地域農家との連携が必要であることを教わりました。

そして、技術指導と必要な農業機械の提供を行う代わりに、格安で本校の牧草を譲ってもらうことができないかという、願ってもない好条件でご協力をいただくことになりました。
また、本校近くの牧場が集まって結成されている地力増強組合さんなどにも協力を募り、地域全体の畜産農家さんを巻き込むことに成功しました。

牧草の品種選定については、富山県は雪国な上、その中で本校は山あいに位置するため特に降雪量も多いということを考慮し、特に耐雪性に優れ、高標高地向き、再生力旺盛、高収量を期待できる品種のイタリアンライグラスの「ゆきつよし」を育てることとしました。

まずは牧草地に繁茂している雑草を完全に取り除くためにブームスプレイヤーでラウンドアップを散布。 1週間後、雑草が枯れ、黄色くなったのを確認し、地力増強組合さんから2tトラックでのべ200台を超える堆肥を牧草地へ運搬してもらい、マニュアスプレッダーにより、牧草地全体にまんべんなく散布。牧草地は、枯れた雑草と堆肥で別世界のように、さまがわりしました。最後に、本校トラクターによる耕起を2日間かけて念入りに行い堆肥を混ぜ込みました。大量の堆肥を混ぜ込んだ土は、見違えるほどふかふかになり、柔らかくなっていることが確認できました。


▲除草&堆肥散布後の様子


播種までの間に以上の工程を3サイクル行い、少しずつ土が細かくなり牧草が育ちやすい土壌に変化してきていることが肌で感じられるようになりました。

10月下旬、満を持していよいよゆきつよしを播種。また機械播種の翌日は、機械で播種できなかった部分を自分たちの手で播種しました。
播種して1週間後にはゆきつよしが芽ぶきはじめ、定期的な生育調査の結果、1日当たりおよそ6mmの伸長を確認しています。現在は生育調査とともに来年度の1番草刈り取りに向けて、硫安(りゅうあん)の追肥や入念な機械整備を行っているところです。

今後も牧草地作りは後輩たちに受け継いでもらい、地域酪農家さん方の協力によって立派に育った牧草を販売し、校地区連携を推進し続けていきたいと思います。4月、私たちが卒業して間もなくの頃、手塩にかけた牧草地には想像を超える緑のじゅうたんが広がっていることでしょう。』


▲現在の牧草地の様子


牧草地の更新に向けどのように地域の方々と連携し、更新の取組みを行ってきたのかがしっかりと伝わる動画となっていました。

取組み評価部門の発表が終わり、1日目は終了しました。
翌日大会2日目は、枝肉勉強会や流通関係の特別講師による特別講演会ののち、「枝肉評価部門」の審査結果発表が行われました。

今回、東京都中央卸売市場食肉市場で開催されたせりには、過去最多の56頭が出品されました。

中央農業高校出品牛の枝肉がこちら。


▲中央農業高校出品牛の枝肉


▲中央農業高校出品牛 枝肉の断面



そして、今回の枝肉の評価結果は、、



『枝肉重量397kg、歩留等級A、肉質等級5、BMSNo.9』に格付けされ、惜しくも入賞は逃したものの、酒粕を給与して大切に育てた牛として、とやま和牛「酒粕育ち」の定義(日本食肉格付協会の実施する牛枝肉格付規格の4等級以上)を満たす「A-5」ランクの評価を受け、生徒たちは安堵の表情を浮かべていました。

その後、「取組評価部門」と「枝肉評価部門」の両方の合計点数により総合評価部門の受賞校が発表され、褒賞授与や受賞校のインタビュー等がおこなわれ、2日間に渡る大会は無事終了しました。


今回、同校は残念ながら入賞は逃しましたが、生徒たちは日々自分たちの設定した課題に取組み、試行錯誤を繰り替えし成長していく頼もしい姿をみせてくれました。

コロナ禍でオンラインでの開催が続いた中、3年ぶりの現地での開催となり、全国の和牛肥育に青春をかける仲間であり、ライバルでもある生徒たちと交流できたこの機会は、生徒たちにとって大切な経験となったことでしょう。

生徒の皆さん、そして先生、お疲れ様でした!


▲会場にて みの太(青い牛のぬいぐるみ)と共に記念撮影



そして、今回の和牛甲子園出品牛は、大会終了後の2月、富山県内のAコープウインズ食鮮館およびAコープセフレ店の2店舗にて特別販売を実施します。

次回は、その販売の様子をお届けします!ぜひご覧ください。