夏野菜の通年栽培

桜の名所として名高い桜川市・筑西市は、筑波山を南東に臨む茨城県の県西部に位置し、平均気温が13度と温暖な気候と肥沃な大地を活かし、穀物や野菜、果樹、畜産などさまざまな農産物が盛んに取り組まれています。
この地できゅうり栽培が始まったのは、昭和30年代。
当初は夏が旬の「抑制きゅうり」のみの栽培でしたが、消費者のニーズに合わせた通年出荷を目指し、冬期の「促成きゅうり」栽培にも着手しました。
現在は専用の暖房機を活用し、冬場の夜間でも14度以上の室温を維持することができますが、当時は ※"こも"をかけた簡易な鉄骨ハウスに、米ぬかなどの発酵熱を活用した※踏み込み温床をつくる独自の工夫を行い、生育環境を整えていました。
JA北つくば きゅうり選果場部会では、栽培時期の寒暖差に強く、乾燥や雨から守るための白い粉(※ブルーム)がない品種を選んでいます。冬場のきゅうりは、瑞々しいのはもちろんのこと皮が薄く柔らかな食感が特徴です。12月中旬から6月までの半年間で約35万ケースを京浜市場に出荷しています。
※こも:わらを編んだもの
踏み込み温床:発酵熱を利用して、夏野菜の苗を育てるやり方(コトバンク引用)
ブルーム:果物や野菜の果実における果皮表面の白い粉状の蝋物質(ウィキペディア引用)
自然にも作物にも優しい栽培を目指して
JA北つくばきゅうり選果場部会では生産者全員がエコファーマーの認定を受け、自然に優しい栽培を目指しています。
若い生産者は青年部を結成し、寒暖差や病気に強い品種の選定や試験栽培、光合成を促進する「炭酸ガス」の活用や「養液土耕栽培」といった国内外の新しい栽培技術の勉強会を精力的に開催しています。
その技術のひとつが養液土耕栽培です。作物の根本に水を通す管を埋めて、肥料を溶かした液肥を点滴のようにゆっくりと「必要な時に必要な分だけ」与える栽培技術です。かん水と施肥が自動的に行われるため、苗にストレスがかかりにくく品質が安定するメリットがあります。
青年部は学んだ技術の試作を経て、部会で活用され、従来の手法にとらわれず、常に新しい技術を取り入れる敏感さと柔軟さを持っています。
おいしさは土作りにあり
JA北つくばきゅうり選果場部会の部会長を務める藤田さんは、きゅうり栽培歴40年のベテランです。20年程前からは、有機栽培に取り組み、独自にブレンドした堆肥で栽培を行っています。
「昔は時代背景もあり化成肥料が主流でした。確かに生育は旺盛に育ちます。しかし、長い目でみた時に有機栽培したものと比べて果たしてどちらが良いものができるのだろうか、と疑問がわいてきたんです。」疑問を解決すべく藤田さんは、長い年月をかけて牛糞、鶏糞、米ぬかといった有機質を活用した土作りの研究を重ね、ついに籾殻と豚糞を混ぜた堆肥にたどり着きました。
「この堆肥を使い始めてから資材の下にミミズが隠れていることが多くなりました。ミミズは土をかき混ぜ、微生物のえさとして、土を活性化させる効果もありますので、最小限の肥料を施すだけでも作物は元気に育つようになりました。」
有機栽培は、時間と手間がかかります。しかし5年、10年と時間をかけて熟成させたときには、そこに自然の循環が出来上がり、味に反映されていくのです。
これからもよりよい土を求めて、さらなる研究を重ねていきたいと話していました。
まっすぐなきゅうりを作るために
きゅうりは整枝作業や水、温度のささいな変化でもストレスを感じ、生育に影響がでるデリケートな作物です。
成長に伴い、上へ上へと生育旺盛に伸びるきゅうりのつるを整える方法として、「摘心栽培」と「つるおろし栽培」があります。
藤田さんの圃場では「つるおろし栽培」をされています。「つるおろし栽培」とは、子づるもしくは孫づるが2m近くに達すると数十cmほどつるを下げ、これを繰り返しながら子づるもしくは孫づるを育てる方法です。こうすることによりきゅうりに与えるストレスを最小限に減らし、実の曲がりや太さの不揃いを抑えています。また、腰をかがめないで収穫できるという生産者側のメリットも兼ね備えています。
リスクを最小限に減らす出荷
収穫されたきゅうりは、一昨年に導入された最新鋭のきゅうり選果機を通して一本ずつ長さ、太さ、曲がり、色、傷の有無ごとに自動的に選別されます。きゅうりを転がすことなく選果機にかけられることから傷がつきにくく、鮮度の証である表面のイボを落とさず出荷が可能になりました。選果と同じく箱作りや梱包もオートメーション化することにより、労力と時間を減らし、より栽培に力をかけられると部会員に好評です。また、市場や消費者のニーズに合わせて平箱のほか、加工用、袋詰めによる出荷も行っています。
農業の課題
「当面の課題は後継者問題です。きゅうりは毎日収穫できますので休みも少なく、力仕事が必要な場面もあります。しかし、工夫や新しい技術を取り入れられれば上手く乗り越えられる部分もあるはずです。担い手が増えるように私達も県やJAと協力して新たなアプローチ方法を検討している最中です。」と藤田さん。
藤田さんは、農業の担い手の育成や地域農業活性を目的とした団体「茨城県農業経営士協会」の筑西地域の代表として、学生や若手就農者に対する就農指導や栽培技術研修会を開催しています。他産地とも交流し、互いの経営者育成制度や食農教育、農業を活用した地域活性活動を学んでいます。
新技術と有機質の土壌でのびのび育ったJA北つくばのきゅうりは、瑞々しくパリッとした歯ごたえが楽しめます。
JA北つくば直売所「きらいち」でもお買い求めできますので、自然のおいしさをぜひご賞味ください!
取材協力
JA北つくば 大和きゅうり選果場
〒309-1244 茨城県桜川市大国玉4521-1
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