手しおにかける

~和牛を育てる高校生に密着!!【中央農業高校】⑤~

2024年03月22日

和牛の繁殖から肥育までを一貫して実習する県内唯一の農業高校である「富山県立中央農業高校」。


JA全農とやまでは今年度より、新たな取り組みとして、同校生徒たちのスキルアップや畜産農家の後継者育成を図ることを目的に、県内の高い肉牛生産技術を有する生産者の協力のもと、生育ステージに合わせた生産技術講習を継続的に実施しており、本ブログでは、生徒たちがその講習に取り組む様子をご紹介しています!


第一回生産技術講習の様子はこちら:農業高校生の肉牛生産技術向上に向けた取り組みを開始! | トピックス一覧 | JA全農とやま (zennoh.or.jp)「繁殖牛の管理・種付け」


今回は、同校肉用牛舎にて2月に実施した「妊娠牛の健康管理」などをテーマとした生産技術講習の様子をお届けします。


同校では、飼育されている繁殖用雌牛が高齢で種付けに不安があることや、優れた血統への更新もできていないといった課題があり、JA全農とやまは昨年3月に、同校での肉牛の実習継続や畜産後継者の育成を目的として、繁殖用の雌の和牛素牛2頭を寄贈しました。

▲寄贈時の写真 ▲寄贈した繁殖用 和牛素牛2頭


贈呈についての記事はこちら富山県立中央農業高等学校へ繁殖用 和牛素牛を寄贈しました | トピックス一覧 | JA全農とやま (zennoh.or.jp)

和牛は、出生すると「子牛登記」という届け出が必要で、その際に「名号(めいごう)」と呼ばれる名前がつけられます。雌はひらがな、雄は漢字で名づけるといったルールがあり、今回の贈呈牛2頭はそれぞれ「さちひさ22」と「あきひめ1922」という名号が付けられています。

▲(左)「あきひめ1922」と(右)「さちひさ22」


昨年10月、同校にて「あきひめ1922」に、人口受精を実施。

▲凍結された精液をお湯で解凍 ▲人口受精に使用する器具



▲器具を使用し、種付け


昨年12月に、妊娠が確認されました。

▲妊娠判定の様子(直腸検査) ▲エコーでも確認


牛は、早ければ生後12か月ごろから発情が確認されるようになりますが、一回の発情が継続するのは10時間~24時間ほどの限られた時間。


この2頭は中々発情が見受けられず、生後16か月ほどでようやく「あきひめ1922」に発情が見受けられた際に1度種付けしましたが、妊娠が確認できず、今回2度目のチャレンジで、晴れて妊娠となりました。


今回はそんな「あきひめ1922」に元気な子牛を産んでもらうため、また、なかなか発情が確認できない「さちひさ22」に発情をおこさせるため、県内肉牛生産者の上野さんを講師に招き、講習会を開催しました。


▲この日、講習を担当する生産者の上野さん


講習には2年生の生徒4人が参加。
上野さんに、よろしくお願いします!と元気に挨拶し、講習がスタート!
まずは、実際に牛を見ながら、生徒や先生が現状の気になっていること、改善したいことを上野さんに説明します。

▲講習の様子

生徒からは、
「贈呈された2頭のえさの食いつきがあまり良くない」
「妊娠牛の『あきひめ1922』が、あまり元気が無いように見える」
「『さちひさ22』の発情が中々見られない」
「以前、えさの牧草を変更したが、それが食いつきにも影響しているのかな」といった声があがりました。


生徒たちの話を踏まえ、上野さんは、まずえさをどのぐらいの量あげているか、1日に何回あげているか、牛たちが残したりしていないかなどについて生徒たちに確認します。


牛のえさは主に「粗飼料(そしりょう)」と「濃厚飼料」の大きく2種類に分けられ、「粗飼料」は、主に牧草から作られた飼料で、「濃厚飼料」とは、とうもろこしや大豆、麦やふすま(小麦を製麦したときに出る外皮)などを粉末状や圧ぺん加工(蒸気をかけた後圧力で押しつぶす)したりしたものです。

▲牧草を食べる牛


生徒たちの話を聞き、上野さんからは「おそらく、全体的に栄養が足りてないように思う。粗飼料、濃厚飼料含めえさの量を増やすと良い」とのアドバイスが。


まずは、現在同校にて朝と昼の1日2回やっている牧草を夕方にも追加し、1日3回あげ、総量も増やすよう提案。
また、「ヘイキューブ」と呼ばれる、牧草を加工しキューブ状にしたタンパク・ビタミンなどが補給できるえさを、同校では妊娠した分娩前後の牛にだけ与えていたところ、発情の来ていない牛にも同じように与えることや、濃厚飼料の「ふすま」の量を増やすことなどをアドバイスしました。


さらに、話を進める中で、この2頭がこの牛舎の他の牛と比較して体が小さく、他の大きな強い牛にえさを横取りされ、食べ負けてしまっていることが判明。


全ての牛が均等にえさを食べられるように、えさをあげる際は「スタンチョン」と呼ばれるパイプ柵から首が抜けないように、柵の上部を固定しておく留め具をかけておくことをアドバイスしました。

▲柵の留め具をかけ、全ての牛の首元を固定


上野さんによると、「中々すぐには結果が出ないと思うが、これらのことを続けていれば、2、3か月ほどで回復が見られると思う」とのこと。


実際の牛の様子を見て生徒たちから話を聞き、しっかり現状を把握いただいたうえで、的確かつ具体的なアドバイスをもらうことが出来ました。


この講習を受け、生徒たちに話を聞いたところ、


「牛がえさを残すことがあり、やりすぎなのか迷うことがあったが、実際は足りていないと分かった。朝はたくさん食べ、昼は残すことがあったが、夜ならお腹が減り食べてくれるかもしれないから、時間と量を調整し実践したい」

「牧草を残しても、ふすまやヘイキューブは食べることがあるので、えさの種類ごとの量も調整し様子を見たい。妊娠牛以外にもヘイキューブをあげると良いなど、濃厚飼料の重要性が分かって良かった」

「見た目にも肉付きが良くなく、全体的に栄養が足りていないのではと前から思っていた。えさを増やす必要があると分かり、今回講習に参加した4人以外にも伝えていかないといけないので、ホワイトボードに書いて共有するなどして後輩にも教えていきたい」
など、しっかりと上野さんからのアドバイスを受け止め、今後の管理に役立てようとしてくれていました。


講習を通じ、改めてこれまでの自分たちの管理を見直したり、今後の管理方法を試行錯誤するなど、生徒たちそれぞれに、気付きや学びがあった有意義な時間となったのではないでしょうか。


なお、牛の妊娠期間は約280日間。
現在妊娠中の「あきひめ1922」の子牛は、このまま順調に生育が進めば、今年の8月上旬ごろに産まれる予定です。

▲妊娠牛「あきひめ1922」


引き続き、本ブログでは、生産技術講習の様子や母牛、産まれてくる子牛の様子もご紹介していく予定です!