全農は10月28日、生産者と消費者の相互理解に向け、「お米の流通に関する有識者懇話会」を東京・大手町のJAビルで開催しました。ファシリテーターには農学者の佐藤洋一郎氏をお迎えし、第1回は3名の生産者にお越しいただきました。
有識者としてO2Farm共同代表の大津愛梨氏、(株)ぶった農産取締役会長の佛田利弘氏、(株)HIRR代表の米利休(こめのりきゅう)のお三方に登壇いただきました。
当日の様子をご紹介します。

自己紹介:
学生時代の一目ぼれから「農家の嫁」へ
ドイツ生まれ東京育ち
大学4年の時に出会った「彼」が 熊本出身の農家の跡取りだった
結婚後、夫婦でドイツに留学。「ランドスケープ計画」を学ぶ
2003年に夫の郷里・南阿蘇(白水村)で就農
4児(3男1女)の母

要旨:
夫の実家(農家)である南阿蘇を訪れた時に目の前に広がる景色を見て就農を決意。現在はO2Farm共同代表(家族経営)。6haの水田、5haの牧草地、20頭のあか牛を肥育する環境保全型、自然循環型の農業を実践。
世界農業遺産に認定(2013年)された大きな理由は野焼き。人間の手が加わって広大な草原が守られている点が評価された。森、川、田んぼ、牧畜、人びとの暮らしが、全体として世界的な価値を持つと認められた。草原で放牧するあか牛の牛糞堆肥を、春に田んぼに戻す。牛は田んぼから取れた稲藁を食べて、籾殻が敷料になって、それがまた堆肥となって、田んぼに戻るという循環。伝統的に続けられてきた複合経営。
農業以外では、学生の受け入れやレストランバスの招致などといった観光事業との連携も行う。それがきっかけで、若者の就農や移住につながり21組のペアが誕生。結婚出産して今や50人超え。
やりたいけど出来なかったのが景観保全型の圃場整備。伝統的棚田の形状維持が難航しているほか、小水力発電の制度的ハードルによるエネルギーの地産地消や空き家活用の遅れによる農家民宿の実現が課題。工事費や地域住民の高齢化が障壁となっている。今後は生態系モニタリング、近自然工法やビオトープの保全、あわせて、ランドスケープ農業の定義、評価指標を試案化し、景観・生物多様性・地域循環を一体でとらえる持続可能なモデルを発信していく方針。この景観を記録したい、そういう思いで取り組む。
次にエネルギーの地産地消。農業用水路を使った小水力発電を研究しているが、ハードルが高い。農家は屋根が大きいので太陽光発電をEVに貯めて家にも電気を供給。バイオディーゼルという植物系の軽油代替燃料をトラクターで活用している。
道半ばだが、ライフワークとしてランドスケープを守るという農業のカテゴリーを創出したい。農業は、環境破壊や自然に負荷をかけていると言われるが、農の営みが、環境やランドスケープの保全につながるという社会にしたい。特に稲作は連作が可能で、低窒素で高収量が取れる優秀な作物。多様な生きものたち、子どもたちにとっても住みやすい環境、クオリティオブライフの高い家族経営を見せていけたら良い。
自己紹介:
株式会社ぶった農産は、昭和63年に法人化
昨年、息子に社長を引き継ぎ会長に就任
約40年にわたり地域に根差した経営を継続
現在、野々市市で34haの水田で米作り(一枚7~8Rで約240筆の圃場)
創業時より農産加工を行っており、近年、6次化産業と言われるが、元々農家が持っている伝統的な知識を使って様々な取組みを行う

要旨:
昭和63年に農業法人を設立してもうすぐ40年。創業時から農産加工を行っていた。今、6次産業化などと言われるが、農家が持っている伝統的な知識、新たな技術を使いながら、生産から様々な食品の加工に取り組んだ。例えばかぶら寿司、これは60数年の歴史がある。自身は農家の五代目としてそれを継いできた。昨年、息子に社長を交代し自身は会長に。新社長の下、新しいビジョン「Empowering the Region」を掲げ、地域に根差した農業を明確に打ち出した。
稲作では、特別栽培米の制度が昭和63年に始まり平成2年より取組み開始。平成の米騒動の前には全量を直接販売していた。その後は米余りの時代が続いたが、当時から精米で1キロ500~600円。親子三代にわたり購入くださっている顧客もいる。昨年から段階的に価格を改定し、現在700円~1000円。耕作面積は現在34ha、すべて販売先が決まっている。未来に向け、どのようにお役様の信頼を獲得していくかというのが農業者の役割でではないか。5年前からプラコート肥料は不使用、農薬は地域基準の22成分のうち11成分以下とするなどの取り組みを行っている。
今後の農業経営は、親子間の伝承ではなく経営の仕組みで継承できるよう変える必要がある。また、自動水口給水機などをメーカーと一緒に開発するなど、外部との連携によるソリューション開発に取り組んできた。現在、GHG削減とプラスチック肥料に頼らない栽培体系を目指して粒状二段施肥の技術開発中である。
農業基本法(1961年)というのは社会全体、農村全体の全体最適を求めたものであり、食料・農業・農村基本法は部分最適を求めた政策。経営の部分最適を求めるのではなく、地域のシステムとのシナジーを作って、それを消費者や国民に買っていただくというのが新たな米政策のアプローチになるのではないか。
概算金を高くすると、結果として全体の相場が強く押し上げられる、いわゆる合成の誤謬。個々人の目の前の判断は正しいと思っても、それを組み合わせると、マクロでは間違ったことになるという考え方があるがそういうことが起きている。
少子高齢化や限界集落の増加の問題へのアプローチを誰がやるのか。米の概算金を農家に示すのは単協、実際に米を売るのは全農だが、このガバナンスをどう整理するのか。共同⇒協同⇒協働⇒共創。こういう形に農協と全農との連携が行われる必要があるのではないか。
自己紹介:
26歳、昨年、東京大学卒業後、祖父の農業経営悪化を機に就農
約5.5haの経営から出発し、2年目に33ヘクタールへ拡大
SNS開始「東京大学を卒業して農家になりました」が3か月でフォロワー20万突破
ネット販売開始、5㎏約700袋を11時間で完売
2年目の今年は4時間で売り上げ3,000万円を達成

要旨:
もともと農業とは無縁の人生。就農の決断をしたのは二年ほど前。祖父が農業をやめると口にしたのがきっかけ。78歳の祖父一人では、合計8haの農地の管理は無理。自分は別の事業を始めるつもりで葛藤もあったが、60年もの間、祖父が作り続けた美味しいお米を作りたいと思い決意。
初め、生産技術を高めようとしたが、5.5haの面積だけなので販売価格を上げることにする。SNSをうまく活用できれば、自分の売りたい価格で売れると考え、「東大を卒業して農家になりました」のワードを使ってスタートしたところ、その動画が一日で200数十万回再生。一日でフォロワーが2万人を突破し覚悟が固まる。3か月後にフォロワー20万人突破。2か月後の10月、米騒動の時期と重なり、お米約700袋(5kg)を11時間で完売。その冬、地元で約20haを耕作する農家と一緒に株式会社HIRR(ヒアー)を設立。今年は33ha以上で米を作った。6月18日、ネットで予約販売をスタートしたところ4時間で3000万円超の売上げとなる。
持続可能な米作りの課題は高齢化と担い手不足。今年4月、近所の農家が倒れて米が作れなくなり6haを任される。7月6日には祖父が倒れて急遽引退。農家の平均年齢は69歳。いつ続けられなくなるか分からない現状を身をもって理解する。就農する者より離農する者のほうが圧倒的に多いことを実感。
離農した農地を引き受けた農家の負担は大きくなる。私たちも2人で33ha耕作しているが、ともにサイドビジネス。私は別の事業活動をしているし、もう一人は高校の非常勤講師。激務だが、引き受けないと耕作放棄地が増えるし、耕作面積が減るだけでなく景観や環境の問題も出る。実にいろんな問題があるということを理解し、2年目にして、農業現場が相当ひっ迫していると感じた。
収量、品質を安定させるのも難しい。米不足で色々な要因が指摘されるが、水田面積が変わらなくても、農家が減ったら反収は圧倒的に落ちる。もとは1反10俵取れていたところが8俵になる。人手不足による収量減は相当な影響があると感じる。
私は、色々な方に見ていただくチャンスを得た。私に何が出来るか考えてきた。若手農家、または非農家に向けても農業の魅力を発信したい。農業をしたい、と思ってもらえるような象徴、農業界の大谷翔平選手になる。農業界以外の方に知ってもらい、自分も頑張るぞ、と一歩踏み出してもらえる存在になる。そのためには、健全経営で儲かっている姿を見せること。それをSNSで発信し、メディア露出を通じて知ってもらう。
新規の若手就農者が増えたら、その次の課題として、若者が定着できるような環境とか仕組みが必要。新規参入しても1/4~1/3ぐらいの方は撤退するデータがあるが、それを防げるような環境が必要。
最後に、全農には多様な農家と共に儲ける組織になってもらいたい。経営体が減少すると、例えばある農協では経営体の数が1万あったところが、最終的に10ぐらいになることもあり得る。残った経営体の影響力は大きくなり、要望に応えられないと農協離れが進む。経営体も多様化しており、特に最近の若者世代が志向する農業法人は6次化を図り、自分たちで加工、流通、販売まで行う。そういう経営体の要望への柔軟な対応が求められる。例えば私の場合、販売はできるが、乾燥調製施設、精米所、倉庫を持つと相当な投資が必要となる。乾燥調製施設で3億位の見積もり。今は、精米も発送も全て外部に委託している。農協に出荷して、精米加工、発送まで農協が受けてもらえれば集荷率は上がり、一緒に収益を上げられるパートナーになるのではないか。
懇話会後、本会との意見交換でも大変貴重なご意見やユニークなご提案などをいただきましたので紹介します。