果樹・野菜における気候変動への対応
野菜 ブロッコリー

1.栽培に適する気象条件と気候変動による影響

作物名

発芽適温

生育適温

温度 備考 適温 備考
ブロッコリー 20~25℃ 最低温度4~8℃、上限は30℃ 18~20℃
(茎葉の生育適温)
最低温度5℃、上限は30℃前後。異常花蕾の原因として、生育初期の低温、花芽分化期の低温や高温、活着不良、肥料切れ、窒素過多などが関係する。

 

現状(高温による影響)

  • 「地球温暖化影響調査レポート(農林水産省)」によると、ブロッコリーへの高温による影響として発芽不良、活着不良、生理障害、生育の前進・後進、病虫害の発生などが報告されています。

*農林水産省では、2007年より概ね毎年、全国の都道府県を対象とした農作物の高温障害等の影響を調査し、その結果を「地球温暖化影響調査レポート」を発表しています。

写真 ブロッコリーの高温による影響

茎空洞症(写真提供:松永明子)

ブロッコリーの高温障害

  • ブロッコリーの茎葉の生育適温は18~20℃で、良質な花蕾を作るには15~18℃が理想的です。涼しい気候を好み、高温(25℃以上)だと徒長や花蕾の品質低下を招き、低温(5℃以下)では生育が停滞する。
  • 発芽不良
    高温による生理代謝の異常や乾燥による水分不足が要因となる。また灌水過多時の酸素不足も影響しやすい。
  • 生育不良・枯死
    乾燥による水分不足が要因となる。
  • 苗の徒⾧
    苗の蒸散量の低下時(夜間、低日照等)に高温多湿(体内水分過剰)や施肥過剰といった条件で発生しやすい。
  • 苗立枯病
    リゾクトニアやピシウムなどの糸状菌が要因であり、高温多湿条件で発生を助長する。
  • ブラウンビーズ
    高温や乾燥により花蕾表面の花芽が褐変や枯死したもの。
  • リーフィー
    窒素過多や花芽分化後の高温により花蕾の中に葉が差し込む。
  • 茎空洞症
    窒素過多や高温、過湿による急成長、ホウ素欠乏により茎中央に空洞ができる。
  • かさぶた症
    窒素過多や高温、過湿による急成長、ホウ素欠乏により茎表面が割れ、コルク状になる。
  • 黄化
    高温や乾燥等のストレスにより蕾が枯死する。

2.気候変動への対策技術の分類

  • 高温のブロッコリーへの影響は、花蕾の形成など発育への影響、定植時の不活着や葉やけなど短期間に発生する高温障害、病虫害の発生など環境への影響等に分類できる。ここでは特に発育の影響と高温障害への対策を示した。
  • 高温、あるいは高温と乾燥への対策は、これらを回避する方法(高温回避型)と植物の高温耐性を利用する方法(高温耐性型)がある。
  • 高温回避型では、育苗時の遮光、灌水などの技術がある。
  • 高温耐性型では、耐性品種の利用、定植時の高温・乾燥対策としてスーパーセル苗の利用などがある。
  • 栽培においては、単一の技術でなく、栽培期間を通して複数の技術を組み合わせた高温対策が必要である。
  高温回避型 高温耐性型
高温

〇遮光

〇換気

〇冷房

〇スプリンクラー・ドリップチューブ等を用いた
>灌水 ①

〇高温期を回避する栽培時期の選定

〇日照条件などを考慮した圃場の選定

〇栽培品目の見直し

〇>施肥方法の変更 ②(窒素減肥など)

〇耐暑性 >品種の利用 ③

高温・乾燥

〇スプリンクラー・ドリップチューブ等を用いた
>灌水 ①

〇マルチ資材による保水

〇土壌水分条件を考慮した圃場の選定

〇>スーパーセル苗の利用 ④

〇>塩水処理苗の利用 ⑤

図 ブロッコリーの高温対策技術

3.各生育ステージにおける対策

生育ステージ

高温障害

要因

対策

育苗時

発芽不良

高温

発芽適温は20℃から25℃(藤目, 2011a)*1

播種後は1から2日程度涼しい場所に置く

遮光資材により直射日光を遮る

生育不良

高温乾燥

適度な >灌水 ①

徒長

高温多湿
肥料過多
日照不足

適度な >灌水 ① 換気

>施肥方法の変更 ②(追肥を控える)(菅沼ら, 1993)

遮光資材を外す

定植時

活着不良

高温乾燥

スプリンクラー、ドリップチューブ等を用いた >灌水 ①(畑作営農改善推進協議会, 2022)

マルチ資材による保水

>スーパーセル苗の利用 ④(河野, 2016)*2

>塩水処理苗の利用 ⑤(藤原ら, 2002;村上ら, 2009)

生育初期

生育不良・枯死

高温乾燥

スプリンクラー、ドリップチューブ等を用いた >灌水 ①

生育不良

高温多湿

明渠、暗渠の設置、高畝

生育後期

花蕾の異常(藤目, 2011b)*2
ブラウンビーズ(中村ら, 2015)*4
リーフィー

高温

>品種の利用 ③

茎空洞症
かさぶた症
高温
窒素過多
ホウ素欠乏

>施肥方法の変更 ②

(窒素減肥(長野県農政部農業技術課, 2016; Tremblay, 1989 )*5、ホウ素施肥(山本ら, 2022)*6)

収穫時

黄化

高温乾燥

適期収穫を行う

*1:藤目, 2011a. 『農業技術大系』野菜編 第6巻 基+17–基+23
*2:藤目, 2011b. 『農業技術大系』野菜編 第6巻 基+39 –基+42
*3:河野, 2016. 『農業技術大系』野菜編 第7巻 基+134の1の2–基+134の1の6
*4:中村ら, 2015. 園芸学研究. 14(別2): 457
*5:Tremblay, 1989. Can. J. Plant Sci. 69: 1049–1053.
*6:山本ら, 2022. 愛知農総試研報. 54: 95–102

4.適応策の技術情報(外部リンク)

  対策 技術の詳細
※参考サイト、PDFへリンク
出典
① 灌水

育苗時は、基本的に朝に灌水を行い、乾燥する場合は複数回の灌水を行う。過度な灌水は育苗時には徒長の要因となるので注意する。

 
定植時は,灌水により活着を促す(畑作営農改善推進協議会, 2022)。花蕾肥大期の過度な水分は多湿となったり,茎空洞症の発生を助長する(Sanderson and Fillmore, 2010)*1ので注意する。

宮崎県畑地かんがい営農技術マニュアル、畑作営農改善推進協議会, 2022

➁

施肥方法の変更

育苗期において、追肥などで、窒素を与えすぎると徒長の要因となり、健全な苗が育たない。特に低日照、高温下では注意を要する。定植時期が遅れる場合、育苗途中から施肥を中止することで徒長を防止できる(菅沼ら, 1993)。

キャベツセル成型苗における苗質と生育及び収量、菅沼ら, 1993

高温は異常花蕾の発生を引き起こすが、これに加えて過度な窒素施用によっても急激な生育となり、茎空洞症の発生も増える(長野県農政部農業技術課, 2016 )。

長野県環境にやさしい農業技術集、長野県農政部農業技術課, 2016

③ 耐暑性品種 耐暑性品種の育成は多くの種苗メーカーで行われている。これらの最新情報は,各社のホームページ等で取得することができる。

 

④ スーパーセル苗の利用 育苗期に処理を行うことで苗を高温や乾燥に強くする。
通常、キャベツの育苗期間は1か月程度であるが、この期間を過ぎた苗を灌水のみで育苗すると茎が太く、硬化し、葉も厚みを増す。このような苗はスーパーセル苗と呼ばれ、耐乾性、耐病虫性が高い(河野, 2016; 村井, 2022.)。

野菜類における肥料制限育苗法の開発「常温貯蔵が可能で不良環境・病害虫に強いスーパーセル苗の開発」、村井, 2022.

⑤

塩水処理苗

育苗期の苗に塩化ナトリウムNaCl(0.3%)(常盤, 2009)を処理することで、苗の乾燥耐性を高めることができる。 ブロッコリーセル苗への食塩水灌水による収穫の斉一化、常盤, 2009
⑥ 花蕾の異常 ブラウンビーズは、花蕾表面の花芽が褐変や枯死したもの。高温や乾燥により起こると考えられている(藤目, 2011b)。
リーフィーは、花蕾の内部から葉が伸長したもの。高温により発生が増える。
茎空洞症は、花蕾の茎の内部に亀裂が入り空洞ができる現象。高温下の急激な生育により発生し、過度な窒素施用(長野県農政部農業技術課, 2016 )、灌水(Sanderson and Fillmore, 2010)によっても増加する。
耐暑性品種の選択、栽培時期の再考、施肥方法の見直し等を行う。
長野県環境にやさしい農業技術集、長野県農政部農業技術課, 2016

*1:Sanderson and Fillmore, 2010. Can. J. Plant Sci. 90: 729–735.

5.協力者(所属は執筆時【令和8年3月】)

松永 明子 農研機構 野菜花き研究部門 露地生産システム研究領域 露地野菜花き生産技術グループ 上級研究員