果樹・野菜における気候変動への対応
野菜 いちご

1.栽培に適する気象条件と気候変動による影響

作物名

発芽適温

生育適温

温度 備考 適温 備考
いちご 20~25℃  ― 18~25℃ 最低温度5℃、最高温度30℃。
25℃より高い温度では、花芽形成は完全に阻害され、温度が 12~15℃以下となると日長にかかわらず花芽分化する。花芽分化の限界温度および限界日長には品種間差がある。

 

現状(いちごへの高温による影響)

  • 「地球温暖化影響調査レポート(農林水産省)」によると、いちごへの高温による影響として花芽分化の遅れ、連続出主蕾性の低下、病虫害の多発、ほ場浸水のリスクなどが報告されています。

*農林水産省では、2007年より概ね毎年、全国の都道府県を対象とした農作物の高温障害等の影響を調査し、その結果を「地球温暖化影響調査レポート」を発表しています。

いちごの高温障害

  • 花芽分化の遅れ
    いちごは、8月中旬以降の気温の低下と日長の減少に伴い花成が誘導され、9月中旬頃に花芽を形成し定植に至ります。近年は 8 月中旬以降も高温が続く傾向であり、花芽分化が遅れるため、定植時期が遅れ、年内収量の低下を招く。
  • 連続出蕾性の低下
    10月が高温で推移すると、頂花房から一次腋花房の間に発生する葉の枚数が増加し、一次腋花房の開花が遅れる傾向があります。一次腋花花房は1月以降に出荷されるため、年明け後の出荷量が減少する。
  • 病害虫の発生
    【炭疽病】最適発病温度は夜温25℃~昼温35℃で、分生子層形成の最適温度は25℃。温暖化にともない発生リスクが増加。
    【萎黄病】発病最適土壌温度は25℃~30℃で、乾湿差が大きいとさらに発生しやすくなる。
    【アザミウマ類】10 月下旬頃になると生殖休眠に入るが、温暖化に伴って活動できる期間が長くなり被害が増加。
  • ほ場の浸水
    集中豪雨など極端な気候変動が多くなることで、ほ場の浸水による定植準備の遅れや、定植後の浸水による生育停滞が頻発化しています。

2.気候変動への対策技術の分類

  • 「花芽分荷の遅れ」の防止対策には、夜冷庫の有効活用、育苗ハウスの昇温抑制対策が有効です。
  • 「連続出蕾性の低下」には、クラウン冷却や強制換気、遮光ネットの利用、肩換気の導入による本ぽの昇温抑制等の対策が有効であり、一次腋花房の分化の促進や高温による生理障害の発生を軽減できます。
  • いちごの最重要病害である「炭疽病」は、育苗時の株元かん水により被害を抑えられます。
  • 「アザミウマ類」の防虫対策として、定植前にかん注剤を用いることで定植後1か月程度の間アザミウマ類の寄生を防ぎ、効果が切れる頃に天敵農薬剤を放飼することで、継続して防除効果が得られます。
  • 集中豪雨等により、頻繁に圃場が浸水する地域では、排水溝や水中ポンプの設置による浸水対策が必要になりますが、それでも浸水被害を受ける場合は畝を崩されないように不耕起栽培の導入が事例が見られます。
  高温回避型 高温耐性型
高温

日射量に合わせた灌水

>夜冷、低温暗黒、間欠冷蔵 ①

>培地冷却、クラウン冷却 ②

>換気 ③ >遮光 ④  >冷房 ⑤

栽培時期の見直し

極早生品種の利用

気化潜熱利用(ポット)

施肥方法の変更

摘果

高温・乾燥

かん水

>遮光 ④

>細霧冷房⑤

 

図 いちごの高温障害の適応策例

3.生育ステージにおける対策

  • 育苗~定植直後までの高温抑制のため、換気、遮光、冷房のいずれか、またはこれらを組み合わせ、目標温度に達するまで技術投入を検討する。
  • 定植・生育初期は、養分、水分管理が重要。適切な灌水、昇温抑制を心掛ける。
  • 収穫期の高温は、品質低下(小玉化・糖度低下・軟化)を招くため、影響が大きい場合は、クラウン冷却、細霧冷房などの投入も検討する。

生育ステージ

高温障害

要因

対策

播種

発芽不良

高温・水分不足

>換気③、>遮光④、>冷房⑤
(発芽適温20~25℃)

育苗

生育不良

高温・過湿

水はけの良い育苗培土
育苗圃の排水対策

>花芽分化遅延① 高温

極早生品種、施肥量の調整

>夜冷、間欠冷蔵、暗黒夜冷①

>換気③、>遮光④、>冷房⑤

定植・生育初期

チップバーン

Ca不足、水分不足

Ca補給、適切な灌水

生育不良

根の生育阻害

>換気③、>遮光④、>冷房⑤

収穫期

果実の小玉化

糖度低下

そう果数の減少による、果実小玉化
成熟期間の短縮による果実重量減少、糖度低下。

>クラウン冷却②

ウォーターカーテン

>換気③、>遮光④、>冷房⑤

着果不良(夏秋どり)
肥大不良(夏秋どり)

花芽形成阻害

不良果の摘果

種浮き果

生育が旺盛となったときの給液不足培地の乾燥

環境の急激な変化の抑制

果実の軟化

収穫適期が短い

>換気③、>遮光④、>冷房⑤
>花芽分化遅延②

高温と高日射

>培地冷却、クラウン冷却②

・100%遮光資材よる2月頃からの日長制御

4.適応策の技術情報(外部リンク)

  分類 具体的な技術・品種
※参考サイト、PDFへリンク
出典
①

花芽分化の遅れ

夜冷

ルーラル電子図書館

間欠冷蔵

農研機構HP

間欠冷蔵 矢野ら(2024)
暗黒夜冷

宍戸ら (1990)暗黒低温処理および夜冷短日処理の影響、野菜・茶業試験場研究報告

➁

連続出蕾性の低下

培地冷却

イチゴ高設栽培の気化潜熱利用培地冷却技術
平成25年3月

クラウン冷却

促成イチゴ栽培で早期収量の増加と収穫の平準化が可能なクラウン温度制御技術
2007年成果情報

③ 換気 雨よけハウスの肩換気がハウス内気温に及ぼす影響

矢島(2025)岐阜県中山間農業研究所研究報告 第 20 号:32~37

外気導入式強制換気

井出ら(2007)福岡県農業総合試験場研究報告 (26), 51-55, 2007-03

④ 遮光 遮光と葉面散布

夏秋トマトの高温対策技術、青森県、2026

パイプハウス向け簡易開閉外部遮光

タキイ種苗株式会社HP

外部遮光

気候変動適応情報プラットフォーム、2025

⑤ 冷房 屋根散水による施設内冷却

屋根散水による施設内冷却技術マニュアル、群馬県・栃木県・農研機構、2020

細霧冷房

細霧冷房を利用した効果的な高温抑制技術、愛知県・農研機構2020

細霧冷房

施設トマトにおける夏期高温対策技術の開発~超微粒ミストを利用した昇温抑制効果でトマトの年内収量が増加~、川嶋、愛知県、2012

外気導入しながら細霧冷房

外気導入型細霧冷房が夏季ハウス内環境および ミニトマトの生育・収量に及ぼす影響、東ら、2014

施設の外部に細霧冷房

外部細霧冷房が高温期のミニトマト栽培における温室内の環境および生育・収量に及ぼす影響、香西ら、2025

簡易設置型パッドアンドファン

小規模施設園芸における簡易設置型パッドアンドファンシステムの利用法、兵庫県、2016

ヒートポンプ

茨城県農総セ園研、令和6年度、技術情報

ヒートポンプ

施設園芸における高温対策の技術集、令和6年8月、静岡県農林技術研究所。P.18

5.協力者(所属は執筆時【令和8年3月】)

礒﨑 真英 農研機構 野菜花き研究部門 施設生産システム研究領域 領域長