米流通テーマに有識者懇話会 第二回

 全農は11月26日、「お米の流通に関する有識者懇話会」第二回を東京都中央区で開催しました。

 ファシリテーターとして農学者の佐藤洋一郎氏、有識者として株式会社ビビッドガーデンの秋元里奈社長、コープデリ生活協同組合連合会の熊﨑伸理事長、株式会社アキダイの秋葉弘道社長のお三方に登壇いただきました。
 当日の様子をご紹介します。

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佐藤 洋一郎氏(農学者/総合地球環境学研究所 名誉教授)

冒頭のあいさつ:
 本懇話会は全3回のうち2回目となる。今回は流通の関係者、消費者の視点・立場からお話をお聞かせいただきたい。
 メディアの言う令和の米騒動。人によって、これは本当に米騒動なのかという意見もあるようだが、お米の問題についてこれほど多くの方が考えたという機会は、1993年の平成の米騒動以来だろう。以来30年、米はあって当たり前、いつでもどこでも売られていて、これ以上は要らないという風潮さえあった。ここにきて俄然、どうもそうではないのではと改めて我々の心に響いた。そういう事件であった点で、やはり米騒動であったと私は思っている。米騒動の中で、皆さんの関心事は価格、高いか安いかという議論に終始している。そもそも、日本人あるいは日本社会にとって米とは何であったか。この国に住んで、ご飯を食べている者が、教養として考えなければいけない。それがなおざりにされた30年であった。それを考える機会としたく、ファシリテーターの仕事を引き受けた。
 米は我々にとって主食であると同時に、我々の社会、思想、風土、その形成に大きな役割を果たしてきた張本人である。私たちの国は、山がちで、山には木が生え森がある。雨が多く川をなして海に流れ込む。その途中に里域があり、人の生活・農業の場、この里域を中心にして展開している。山の森や、里域の人間活動の結果として発生するミネラルが海に流れ込み魚を育む。これが、我が国の米と魚の食文化を生んだ。それが忘れられているのではないか。もう一度立ち返ってこのことを考えないと、将来は見えてこないのではないか。
 日本は、雨が豊富で温暖で米作りには最適と考える方が多いと思うが、それは真っ赤なうそ。山が多く平地は少ない。多くの土地で、洪水に苦しみ、水がなくて大いに困り果てた。日本社会の伝統知、高い教養が、治水や水利という土木技術を生んだ。そういう社会が水田によって支えられていたとも言える。
 米は主食であり、生活文化、日本の風土を支えてきた基盤であり、私たちの教養、知識、知恵、そういうものを養ってきた。この懇話会を通じ、未来に向けてそのようなことを考える機会が得られればと考えている。

秋元 里奈氏(株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長)

「コメ問題に対する生産現場の声とEC活用による販路多様化の課題」

自己紹介:
実家は畑、稲作を行う農家
2016年に株式会社ビビッドガーデン創業
社名の由来は、色とりどりの野菜が実っていた実家の農地が、耕作放棄地になって色がなくなってしまった。「色鮮やかな農地」を取り戻すという思いで命名
現在は内閣府の規制改革推進会議など、政府系の委員の活動も行う

要旨:
 2016年に創業。食べチョクというオンラインのプラットフォームを運営するEC事業者。小規模・大規模さまざまな農家が自分の経営において一番良い選択肢を取れる世界を、持続可能な農地を維持していける状況をつくりたい。
 最初にスタートしたのが産直プラットフォーム事業の「食べチョク」。生産者に販路を提供し、消費者へ直接販売できるオンライン直売所で、日本最大規模のサービスに成長した。登録会員約120万人、生産者約1万2000人で、米や肉、魚、酒など多様な商品を扱う。出品条件は農業を生業とし、農業で利益を上げようとするプロに限定。趣味や副業の方はお断りし、採算度外視の安値出品を防いでいる。月間の最高売上は、野菜で800万円近く、果物だと2,500万円近く、お米だと2,000万円程度となっている。
 特徴は、生産者が直接消費者に売るところ。価格も生産者自ら値付けするので、同じ地域の同じ商品でも価格は違う。こだわりの育て方などを付加価値として反映できる。従来の市場流通と異なり、特徴的なこだわり、希少性、歴史や背景などのストーリー性があるものが売れやすい。一方で、ECは安定供給が難しく、その時あるものしか売れない。逆に全量を売り切る約束もできない。売上ゼロのリスクもあるため、既存流通との併用、直販・市場流通など、販売先に応じたポートフォリオを組んでリスクを下げることを勧めている。
 米価高騰が話題となったが、アンケートでは米農家の9割がコスト上昇で経営が苦しいと答えていた。販路や価格を見直す方が増え、食べチョクの登録数が4倍にもなった。2025年には改善傾向が見られるものの、依然3分の1が補助金を含めて赤字であり、消費者が納得して生産者も納得できる価格というのは難しい。
 米問題では農地面積の大小が重要。日本の農家の約9割は中小規模で、米生産量の6~7割を担う。大規模化は必要だが、中小規模の役割も大きく、農地の多面的機能維持のためにも支援が不可欠。中小規模はコスト削減に限界があるため、高付加価値販売が鍵となる。EC、ふるさと納税、直売など販路多角化が求められる。
 消費者ニーズも多様化し、ネット購入や品種選択が増加している。温暖化でコシヒカリの収量が減少する中、品種転換が必要であり、認知拡大のため「お米グランプリ」を開催し、王道品種以外にも光を当てている。
 最後に、私たちの課題は生産者のデジタルリテラシー向上と物流コスト対策である。現在登録している生産者は40~50歳代の方が多い。もう少し上の世代にもECや様々な販路を選択できるサポート体制をつくりたい。また、2024年問題などで物流コストが上がる中、各社それぞれでやっていても全体的に苦しくなるだけなので、業界連携が不可欠である。

熊﨑 伸氏(コープデリ生活協同組合連合会 代表理事理事長)

「生産者と消費者をつなぐ~未来へつなごう 日本の米づくり~」

自己紹介:
関東信越1都7県にある6つの生協のグループ
組合員数550万人、事業高は6,000億円
宅配と店舗で商品を組合員である消費者にお届けしている

要旨:
 コープデリ連合会は、関東信越1都7県にある6つの生協グループで構成され、組合員数は550万人、事業高は約6,000億円である。宅配と店舗を通じて商品を消費者に届けることを事業の柱とし、生産者と消費者をつなぐ役割を担っている。
 本日は、生協という消費者の組織としてこの場に立たせていただいている。持続可能なお米の生産の実現という課題は、生産者だけでなく消費者にとっても大きな課題である。コープデリは橋渡し役として、安定供給と持続可能性という観点からお話をしたい。
 昨年、米需給の逼迫により、販売数量制限や抽選販売を実施した。最大競争率は10倍に達し、購入できない組合員から「足が悪く買い物に行けない」「主食が買えない」という悲痛な声が寄せられた。緊急処置として輸入米もごく少量取扱いした。政府備蓄米の放出により状況は改善しつつあるが、価格高騰が続き、組合員の生活は依然厳しい。現在67,000人の組合員が利用する登録米制度による安定供給の仕組みも、昨年は銘柄米を届けられない事態が発生した。
 コープデリは1970年代から産直を進めている。生産者、組合員、生協の顔が見える関係を築き、持続可能な生産を目指す取り組みである。代表的な取組は、①佐渡トキ応援お米プロジェクト(生物多様性保全と寄附)、②お米育ち豚プロジェクト(耕畜連携による休耕田活用)、③食育活動(子供への農業体験)、④フードバンクへのお米の寄附である。これらは食料自給率向上、環境保全、米文化継承に寄与している。特に佐渡トキ応援プロジェクトでは、組合員が購入したお米の売上の一部を環境整備基金に寄附し、累計4,000万円以上を生物多様性保全に充ててきた。お米育ち豚プロジェクトでは、休耕田を活用し飼料米を生産、国産豚の約1%がこの仕組みで育成されている。
 田んぼは食料自給率の要であると同時に、環境保全、米文化の継承、そして次世代を担う子供たちへ引き継ぐ国民共通の社会資産である。この社会共通資産を未来につなぐことは、協同組合の仲間である全農とコープデリ共通の責務であり、国民全体の利益にかなうものである。これを踏まえ、お米作りの未来に向けて4つの提案がある。1つ目は協同組合間の連携強化、2つ目は環境配慮型米の価値と価格の可視化、3つ目は新たな事業創出への共同挑戦、4つ目は、組合員の声を反映した商品の開発である。
 結びに、日本の美しい水田と米文化を100年先へ続けるため、生産者と消費者が知恵を出し合い、JAは生産者側から、生協は消費者側から架け橋をかけ、日本の農業を未来へとつないでいきたい。

秋葉 弘道氏(株式会社アキダイ 代表取締役社長)

自己紹介:
1992年に株式会社アキダイを創業し、今年で34年目
平成の米騒動、令和の米騒動と2回経験
現在は本店を含め12店舗を経営し、年商約60億円

要旨:
 私は1992年にアキダイを創業し、約34年間、小売業界で米や農作物の販売に携わってきた。この間、平成と令和の2度の米騒動を経験した。創業当初は経営が苦しく、お米を求める声に応じてタイ米とのセット販売など様々な工夫を重ねたことを覚えている。こうした経験から、お米が日本にとっていかに大切な食料であるかを強く実感した。
 しかし、米騒動の時期を過ぎると、お米の価値を見失いがちになっていたのも事実である。近年、災害リスクや社会不安が高まる中で再びお米の重要性が見直され、消費者の備蓄需要が急増した。その結果、昨年は南海トラフ地震への懸念から一時的な米不足も発生し、朝早くから高齢者や子連れの方が店頭に並び、備蓄米を求める場面も多く見られた。
 また、かつては年に数回しかなかった生産者からの「米を買ってほしい」という直接の問い合わせが、ここ1年で5件もあり、生産者側も新たな販路開拓を模索している様子がうかがえる。大規模農家に比べ、家族経営の小規模農家では「家族に食べさせたい」という思いが米作りに強く反映されており、こうした生産者と連携することで消費者へ思いのこもった商品を届けられると感じている。
 一方で、消費者は物価高の影響を受け、主食であるお米の価格に敏感である。子育て世帯を中心に「少しでも安くおいしい米を食べたい」という声が根強くある。しかし、生産コストが上昇し続ける中で、過度な安売りは生産者の存続を脅かす懸念がる。逆に価格が高すぎるとお米離れが進み、日本の農業基盤が崩れる恐れもある。バランスの取れた価格形成が重要である。
 特に近年は肥料や燃料など生産コストの高騰が大きな負担となっており、政府や全農が長期的に肥料価格を安定させる施策が不可欠である。これによって生産者が将来にわたって安心して米作りを続けられる環境整備が求められる。もし日本のお米が高騰すれば、海外米への依存が進み、やがて日本の米文化や安全保障にも影響が及ぶ。
 異常気象や人口減少によって農作物の産地や生産者が減少しつつある今、日本が自給できる主食を守ることが国の安定、ひいては国民生活の土台となる。実際、この5年は農作物全体の変化や異常気象が目立ち、食糧難のリスクが現実味を増している。「おにぎり一つが取り合いになる」ような事態が起きかねないからこそ、生産者の持続的な農業経営と安定的な米供給体制の構築が急務である。
 今後も小売やメディアを通じて、生産現場や消費者、それぞれの声を伝え続け、お米という国を支える食料の価値向上に努めていきたい。政府や全農といった大きな組織が連携し、生産者を守る制度づくりを強く望む。

懇話会後の意見交換

懇話会後、本会との意見交換でも大変貴重なご意見やユニークなご提案などをいただきましたので紹介します。

  • (1)以前までは、生産者の方以外お米を贈るというのはあまりみられなかった。お米の立ち位置が完全に変わった。
  • (2)令和の米騒動を経験した人は、お米の大切さを改めて認識した。このタイミングで持続可能な米生産を消費者に示すことが大事である。
  • (3)米騒動の際、全農は世間から間違った認識をされていた。全農に対しての理解を促進させる必要がある。
  • (4)糖質制限ダイエットが話題になった際、お米が悪者にされてきた。全農からもっと医学的な証拠をもって意見を言ったほうが良かったのではないか。
  • (5)日本食ブームがある中、米の輸出量はそこまで多くはない。全農として注力いただきたい。
  • (6)お米の流通に関する詳しい内容は多くの方が知らない。ギャップをなくしていくことが重要である。
  • (7)和食の良さを全農がもっと発信して、ムーブメントを作り上げていただきたい。
  • (8)全農が生産者のためにさまざまな取り組みをしているということをもっと発信すべき。
  • (9)海外の生協は料理大学を作っている。日本の食文化を守るため全農で料理大学をつくってほしい。

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