全農は、全国各地で日々、地域農業の担い手に出向く活動を実践している「TAC」のレベルアップを目的に、TACの活動を全国統一名称で開始した2008年より全国のTACを対象として「TACパワーアップ大会」を開催しています。
2023年度、第16回となる「TACパワーアップ大会2023」のテーマは次の3点です。
- (1)地域農業の課題の解決に資する出向く活動基盤の強化
- (2)食料安全保障に資する「強い農業」の創出に向けた生産基盤の維持・強化
- (3)次世代に地域農業をつなぐための環境調和型農業の実践
今大会は、昨年度に引き続き新横浜プリンスホテルでの実開催とWebでのリモート開催を並行し、合わせて約450名が参加しました。また、大会中には「県域サテライト企画」と題して、Webで視聴している参加者と本会場を中継し、各県域に設置したサテライト会場から日ごろのTAC活動や全国のTACに向けたメッセージを発信していただきました。
また開催報告は、日本農業新聞(2023年12月8日付)にも掲載しています。
TACパワーアップ大会2023の活動表彰では、TACトップランナーズJA・2JA、JA部門(全農会長賞)・1JA、JA部門(優秀賞)・1JA、TAC部門(全農会長賞)・1名、TAC部門(優秀賞)・2名、TAC部門(地区別優秀賞)・6名が表彰されました。
TACパワーアップ大会 2023活動表彰
JA部門
岐阜県 JAにしみの【全農会長賞】
みどりの食料システム戦略に基づき、JAとして栽培体系転換の具体策や、適正施肥指導ができる環境づくりが十分に提供できていないこと、また、JA若手職員の推進力向上のため、誰もが指導できる組織体制と補助ツール・アプローチ方法の確立が課題となっていた。
TACが調査研究した土壌pHと小麦収量の関係性を「散布図」にし、TACの提案ツールとして活用したほか、営農指導力の平準化を図るためのスマート農業ツールの活用や、TACと支店担当者が連携してJA利用者全般へ一斉申請支援に取り組んだ結果、高騰する担い手の肥料価格抑制に貢献することができた。
茨城県 JA水郷つくば【優秀賞】
各地区での業務遂行により統一的な業務管理に課題があったほか、目標や評価が曖昧で人材育成の体系化に課題があった。
これに対し、営農職員の「あるべき姿」の業務遂行のプロセス管理体制を整備し、営農経済事業の各施策を推進する基礎を構築した。
プロセス管理を中心とした5つの目標により進捗管理をおこなったほか、令和4年度には本店に専任部署を設置し統一的な業務管理を実現した。
2年間の取り組みの結果、特に土壌診断数が大幅に増加、出向く活動の量、質に対する職員の意識は着実に向上している。
TACトップランナーズJA
石川県 JA金沢市
これまでJA金沢市では、集落営農法人の組織化支援・複合経営支援(2016年)、関係機関と協力した事業承継・経営移譲支援(2018年、2022年)、兼任TACの役割見直しによるTAC体制の強化(2022年)、ふれあい展示祭・収穫体験等による地域振興(2016年・2018年)などに取り組んできた。
担い手の農業経営の課題は労働力不足、米価下落、肥料高騰など毎年著しく変化しており、要望や課題のハードルも高くなってきている。また、今後職員の人事異動や定年退職等により、ベテランTACの人員不足も懸念される。
これら課題に対し、訪問活動の質を高め担い手の声に応え続けていくため、「TAC職員のスキルアップ」「訪問時持参ツールの強化」「部門間連携の強化」を実践し、TACが起点となった担い手の経営課題解決への取組みを進めている。
担い手の要望は日々変化に富み幅広い。TACは変化に合わせて営農・金融・農業政策など幅広い知識習得が求められるため、各種講習会・異業種交流会・部門間連携等の機会を提供し、引き続きTACの育成に取り組んでいく。
熊本県 JA阿蘇
これまでJA阿蘇では、熊本地震からの復興に向けた営農支援(2016年)、JAの総合力を発揮した集落営農法人設立・経営支援(2016年、2021年)、農業師匠制度等を活用した新規就農支援(2016年、2021年)、情報発信力強化に向けた出向く体制の再構築(2022年)などに取り組んできた。
近年、高齢化に伴う離農者が拡大しており、農事組合法人の設立が増加しているが、担い手への農地集約に伴い管理作業も増加しており、適期作業に課題が生じている。また、麦の作付面積が増加しているなかで、麦生産に伴う防除作業が地域に浸透しておらず、病害の大量発生が課題となっていた。
このため、関係団体と連携し、管内の担い手・部会員に対し防除の必要性を再周知のうえ、無人ヘリによる防除を実施し、適期作業の実現、収量・品質の安定化、作業効率化を実現した。
今後も、栽培管理システム・自動給水機等の各種ツールを活用しながら、担い手の適期作業・作業負荷軽減を実現し、産地の維持に向けた取り組みを展開していく。
TAC部門
石川県 JA石川かほく
櫻井 和幸 氏 【全農会長賞】
『産地戦略作成による持続可能な産地づくり』
JA石川かほく特産の「高松紋平柿」の持続可能な産地づくりに向け、部会・市場・石川県農業総合支援機構・県・市・全農・JAとともに「産地戦略」を策定し、生産対策やブランド価値底上げによる担い手農家の所得並びに生産意欲の向上に取り組んだ。
生産面では高齢生産者向けに低樹高栽培の提案や、若手生産者に向けた剪定見本樹を設置した他、販売面ではプレミアム規格を新設したことで生産量・販売単価・販売金額全てが向上し、加えて石川県が認証する「百万石の極み」ブランドの一つにも選ばれ、担い手農家のモチベーションは最高潮に達しており、産地の維持・発展に繋がっている。
岩手県 JAいわて中央
米田 菜摘 氏 【優秀賞】
『次世代に地域農業を繋ぐための農業技術のスマートな継承
~地域一体型法人が繋げる「農業・ひと・自然」~』
日本最大級の農事組合法人では、労働力不足から作業適期を逃してしまう「農業」の課題、作業員の技術不足による「ひと」の課題、大豆栽培に対して排水性が悪い「自然」の課題を抱えていた。
それに対し担当者の経験の差からくる圃場管理問題の解決に向けたスマート農業の活用、大豆栽培圃場の排水性改善技術の導入を提案した。
スマート農業の普及は省力化と作業性向上に、排水性改善は生産性の向上や生産者の不安解消につながった。また、これらの一法人への“農業”、“ひと”、“自然”の面からの支援を通じ、担当地域全体として抱える課題への対応、ひいては持続可能な地域農業の確立へとつながる取り組みを展開している。
島根県 JAしまね
原 紀行 氏【優秀賞】
『集落営農の新しいかたち ~組織存続に向けた挑戦~』
集落営農組織の組合員の高齢化が進み、後継者育成・労働力不足への不安の声に対して、集落営農将来ビジョン相談会や経営分析を実施し、組織存続に向け取り組みを行った。
これにより、農事組合法人同士の合併、営農組合の将来を考える検討会の立ち上げ、農事組合法人の株式会社化など、複数の組織が将来に向けた本格的な検討や取組みが開始された。
TACがそれぞれの組織の中、もしくは組織同士の間に入ることで、地域農業全体の人材確保や集落の発展につながり、若手世代への組合員も含めてJAグループ全体との関係性強化につながった。
埼玉県 JAほくさい
須賀 大輔 氏 【地区別優秀賞】
『北川辺地域における埼玉ブランドイチゴ「あまりん」「べにたま」の本格出荷に向けて』
近年の資材費等の高騰によりイチゴ生産者は厳しい環境に置かれているが、手取り増加のため、市場評価の高い新品種の栽培導入を提案した。
品種変更にともなう講習会の実施、出荷資材の工夫や品質低下を防ぐシステムの導入など、手取り最大化に取り組んだほか、高額な設備投資については補助事業や融資の活用による資金面での不安軽減をはかった。
これら県産ブランドの新品種の導入の取り組みは地域活性につながるとともに、市場定着もはかることができた。また、これらに生産者・JAが一丸となって取り組んだことで、信頼関係の強化につながった。
神奈川県 JAさがみ
森 海人 氏 【地区別優秀賞】
『堆肥施用による津久井在来大豆の収量と品質向上にむけて
~6次産業化への新たな取り組み~』
地域で生産される大豆は、学校給食や地域の特産品である豆腐に供給されているが、在来大豆の収量は年々減少傾向にあり、地産地消の取り組みをおこなうなかで安定的な収量を求められていた。また、出荷先からは小粒大豆が加工品に使いづらいとの声があった。
これに対し、安定的な収量に向けては、堆肥や緑肥の導入を提案し、収量・品質の向上につながった。小粒大豆の販売については、新たな加工品としてきな粉とそれを使用した和菓子きな粉玉を作成し、直売所での人気商品となった。
また、堆肥・緑肥の導入については継続した取り組みにより、さらなる品質向上が見込める。
石川県 JA能美
西田 誠也氏 【地区別優秀賞】
『たまねぎ産地の形成に向けた取り組み ~水田園芸ゼロからのスタート~』
園芸品目の取り扱いがほとんどない地域であるJA能美管内において、タマネギ産地づくりに向けてゼロから取り組みをスタートさせた。
全農いしかわやJAグループ石川営農戦略室、南加賀農林事務所と連携しながら、除湿乾燥設備の新設や追肥のオーダーメイド指導、植え付け株間の最小化の提案や生産者所有の堀上げ作業機の作業委託の仲介などを実施し、担い手の抱える、L・Mサイズの経済階級の生産や製品歩留まりの向上、作業の省力化などの課題解決に貢献し、石川県内における先進産地として、タマネギの産地化に向け着実に歩みを進めている。
三重県 JA鈴鹿
谷口 昌志 氏 【地区別優秀賞】
『加工用白菜におけるジャストインタイム出荷に向けた取り組み』
平成25年に加工白菜部会を設立し、当初は「作れば売れる」という考えから産地拡大してきたが、ある程度の生産量を確保できるようになった現在では、在庫が滞留しない仕組みづくりや品質を第一とした定時定量出荷が課題となった。
そこで、出荷指示計画書を用いた販売状況の見える化や、Z-GISを用いた生産状況の見える化を行ってジャストインタイム出荷することで、契約産地としての信頼度を高め、農家所得増大に繋げることができた。
佐賀県 JAさが
鶴田 新侍 氏 【地区別優秀賞】
『逆境に負けない生産意欲の向上と「強い産地づくり」
~JA総合力で地域農業の強化を目指して~』
担い手への農地集約が進むなか、資材高騰・人員不足により作付面積拡大が難しい担い手に対して、生産コストの低減、農作業の効率化・省力化、収量・品質精算価格の向上等、リアルタイムで担い手ニーズにマッチした提案を行った。
また、省力化につながる農業機械導入に際しては、JAの独自助成事業や資金調達に関する相談等を関係部署と同行訪問のうえ提案し、JAの総合力の強みを活かした対応を行った。
これら取組みにより、JA利用の促進、農業経営の改善、商系利用者の呼び戻しを図ることができ、JAのイメージアップにつながった。
熊本県 JA本渡五和
山下 清弥 氏 【地区別優秀賞】
『経営的・環境的に持続可能な営農組合の構築に向けた関係機関との連携強化の取り組み
~天草型スマート農業を軸にした8機関連携の輪~』
地域の結束力・運営力の弱体化という共通課題を持つ8つの集落営農組織に対して経営分析を提案し、営農組合長からオペレーターまで組合員全員が経営的に持続可能な営農組合を目指す意識醸成に取り組んだ。
また経営分析結果をふまえ、WCSから飼料用米への作付転換提案、スマート農業技術であるアクアポートでの水管理作業省力化の実現に加え、ザルビオによる適期作業の実現により農薬使用回数を減らしたことでコスト低減だけでなく環境的にも持続可能な組合を目指した。
TACが軸となり、8組織が連携して同じ目的・目標に向き合い取り組んだことで地域の一体感を創出し、活性化に繋がった。
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