概論

4.気象変動の影響と対策技術

  • 農林水産省では、温暖化による影響等のモニタリングを行い、「地球温暖化影響調査レポート」により影響の発生状況や適応策の実施状況について、情報発信しています。
  • ここでは、各地で適応策を検討する上での参考とするため、品目別に主な高温障害と各地で講じられている適応策の例についてまとめました。
    出典:「地球温暖化影響調査レポート」(農林水産省)

品目

高温障害

発生の原因

症状

適応策の例

留意事項

うんしゅうみかん

浮皮

果実肥大期~収穫期の高温・多雨、多雨(9~12月)

果皮と果肉が分離した状態

・マルチ栽培等による水分制御

・植物成長調整剤の利用

・樹冠上部摘果等による高リスク果実の除去

「いしじ」等は発生しにくい

日焼け

果実肥大期~収穫期の高温、高温・少雨
(7~10月)

果皮やその下の果肉組織の一部が変色

・遮光資材による樹冠及び果実の被覆

・樹冠上部摘果等による高リスク果実の除去

・灌水による樹体の水ストレスの緩和

気温35℃以上で発生リスクが増大

着色不良

果実肥大期~収穫期の高温(8~12月)

果皮が全面着色に至らず、緑色の部分が残る状態

・マルチ栽培等による光環境や水分制御

・着色初期からの夜間冷房(ハウスみかん)

その他かんきつ類

日焼け

果実肥大期~収穫期の高温、高温・少雨
(7~10月)

 

果皮やその下の果肉組織の一部が変色

 

・遮光資材による樹冠及び果実の被覆

・樹冠上部摘果等による高リスク果実の除去

・灌水による樹体の水ストレスの緩和

りんご

日焼け

果実肥大期~収穫期の高温(7~9月)

果皮やその下の果肉組織の一部が変色

・遮光資材による樹冠および果実の被覆

・葉取らず栽培の実施

・灌水による樹体の水ストレスの緩和

・細霧冷房による果実温度の低下

気温35℃以上で発生リスクが増大

着色不良

着色期~収穫期の高温(8~11月)

着色系品種:果皮の着色が阻害され、本来の着色に至らない状態

・優良着色性系統や品種、黄色品種の利用

・適切な窒素施肥量の励行

ぶどう

日焼け

果実肥大期~収穫期の高温、高温・少雨

(6~9月)

果皮やその下の果肉組織の一部が変色

・遮光資材による樹冠及び果実の被覆

・新しょう配置による直射日光の緩和

・細霧冷房による果実温度の低下

着色不良

果実肥大期~収穫期の高温(6~9月)

着色系品種:果皮の着色が阻害され、本来の着色に至らない状態

・環状剝皮

・植物成長調整剤の利用

・優良着色性品種や黄緑色品種の利用

・着房数又は着粒数を制限(巨峰)

「グロースクローネ」は着色に優れる

日本なし

日焼け

(煮え果)

果実肥大期~収穫期の高温・乾燥(7~9月)

果皮直下の果肉が褐変

・遮光資材による樹冠の被覆

・灌水による樹体の水ストレスの緩和

コルク状障害

果実肥大期~収穫期の高温・乾燥(8月~10月)

果肉の維管束部分に乾いた褐色のえそ斑点が発生

・適切な着果管理

・土壌の塩基バランスの適正化

・エテホン散布

・樹上散水による高温の抑制

・土壌深耕

発芽不良

冬季の高温

長果枝の発芽・開花遅延、芽枯れ、枝枯れ

・施肥や堆肥散布の時期を春に変更

・土壌改良

・花芽が得やすい枝管理

・発芽促進剤の利用

「凜夏」は発生しにくい

もも

水浸状果肉褐変症

夏の高温、収穫前の多雨

果肉の一部が水浸状になり褐変する一種の過熱症状

・適期収穫の徹底

・機能性果実袋、透湿性マルチシートの利用

おうとう

花形異常

花芽分化期の高温

(7月中旬~9月上旬)

花芽分化の異常により、複数の雌ずいが形成(双子果)

・遮光資材による樹冠の被覆

うるみ症状

収穫期の高温

果肉が水浸状になり、褐変する過熱症状

・反射シートの除去、種類の検討

・遮光資材による樹冠の被覆

・過度の葉摘みを控え、適期収穫を徹底

・灌水、散水

果肉の硬い品種では発生しにくい

かき

日焼け

果実肥大期~収穫期の高温

果皮やその下の果肉組織の一部が変色

・樹冠又は果実の被覆

・灌水による樹体の水ストレスの緩和

・着果位置の工夫

着色不良

着色期の高温

(8月~10月)

果皮の着色が阻害され、本来の着色に至らない状態

・適正な整枝剪定、着果、施肥管理

・灌水や土壌改良

うめ

花形異常

冬季の高温

開花期の前進により雌ずいが未熟なうちに開花(不完全花となり結実に至らない)

・適切な施肥や春季摘心による花数の確保

*出典:「果樹農業の振興を図るための基本方針(果樹農業振興基本方針)、農林水産省 令和7年4月30日」

5.施設園芸における気候変動への基本的な考え方

  • 施設園芸では、気温上昇にともなうイチゴの花芽分化の遅れや花芽形成の不安定化、トマトなどの果菜類の着果不良や生育不良などの影響が多く報告されています。
  • 施設における高温対策は、「換気」、「遮光」、「冷房」を適切に行うことが基本で、具体的な資材としては換気扇、遮光資材、塗布剤、細霧冷房、パッド&ファン、ヒートポンプ、屋根流水等の対策があげられます。
  • 施設園芸における高温対策は、設備や栽培環境などに適した技術の選択と、費用対効果を踏まえた適応策の検討が必要となります。

  • 環境制御は、「高温対応型のハウス運用」が前提となる。十分な換気率確保が第一歩、ついで遮光、可能であれば冷房を検討する。
  • ハウス内温度を低下させるための手段を検討する際の優先順位は、換気、遮光、冷房とする。
  • 換気:肩換気など換気面積を大きくするなどの換気の工夫を最大限行う。
  • 遮光:遮熱効果は外部遮光が効果が高い。遮光シートや塗布剤は、使いすぎ(涼しくなったのに張ったまま、塗ったまま)に注意する。
  • 投資コストが大きい冷房は、換気、遮光を検討してから実施すると、冷房の効率が向上できる。

5.「換気」、「遮光」、「冷房」に関する技術情報

分類 具体的な技術・品種 出典
換気 雨よけハウスの肩換気がハウス内気温に及ぼす影響 矢島(2025)岐阜県中山間農業研究所研究報告 第 20 号:32~37
軒高を上げると、温室の自然換気性能が向上 イノチオグループホームページ
お客様事例
外気導入式強制換気 井出ら(2007)福岡県農業総合試験場研究報告 (26) ,51-55,2007-03
遮光 遮光と葉面散布 夏秋トマトの高温対策技術、青森県、2026
パイプハウス向け簡易開閉外部遮光 タキイ種苗株式会社HP
外部遮光 気候変動適応情報プラットフォーム、2025
遮光によるトマト黄変果への対策 トマト黄変果、発生条件の解明と遮光による対策、タキイHP、2025
冷房 屋根散水による施設内冷却 屋根散水による施設内冷却技術マニュアル、群馬県・栃木県・農研機構、2020
細霧冷房 細霧冷房を利用した効果的な高温抑制技術、愛知県・農研機構2020
細霧冷房 施設トマトにおける夏期高温対策技術の開発~
超微粒ミストを利用した昇温抑制効果でトマトの年内収量が増加~、川嶋、愛知県、2012
細霧冷房 細霧冷房がトマトの収量、品質に及ぼす影響、栃木県、2007
外気導入しながら細霧冷房 外気導入型細霧冷房が夏季ハウス内環境および ミニトマトの生育・収量に及ぼす影響、東ら、2014
施設の外部に細霧冷房 外部細霧冷房が高温期のミニトマト栽培における温室内の環境および生育・収量に及ぼす影響、香西ら、2025
簡易設置型パッドアンドファンシステム 小規模施設園芸における簡易設置型パッドアンドファンシステムの利用法、兵庫県、2016
ヒートポンプによる夜間冷房 施設園芸における高温対策の技術集、静岡県、p.18
ヒートポンプによる夜間冷房 茨城県農総セ園研、令和6年度、技術情報

6.露地野菜における気候変動への基本的な考え方

  • 我が国の野菜生産は、様々な気象条件下において地域ごとに多様な作型から構成されています。このため、適応策の策定には、地域ごとの特徴を踏まえることが不可欠です。
  • 露地野菜では、温暖化により収穫期が早まる傾向にあるほか、生育障害の発生頻度の増加、高温や多雨あるいは少雨による生育不良などが数多く報告されています。
  • これらの対策として、高温条件に適応する品種や栽培技術の導入、適切な灌水の実施、栽培時期の調整、適期防除などがあげられます。
  • 高温や干ばつの対策には、多くの場合、手間やコストが生じるため、栽培管理における基本技術を徹底した上で、障害について正しく理解し、個々の対策についてその効果を評価していくことが重要です。
  • 効果の高い適応策については、栽培暦や防除暦に組み込むことで、地域全体で取り組むことが大切です。

適応策の考え方