TACパワーアップ大会2021開催レポート

全農は、全国各地で日々、地域農業の担い手に出向く活動を実践している「TAC」のレベルアップを目的に、TACの活動を全国統一名称で開始した2008年より全国のTACを対象として「TACパワーアップ大会」を開催しています。
2021年度、第14回となる「TACパワーアップ大会2021」のテーマは次の3点です。

  • (1)担い手の構造変化に対応できる出向く活動体制の強化
  • (2)多様なニーズに対応した労働力支援・事業承継・スマート農業の取組加速
  • (3)コロナ禍における創意工夫あるTAC活動の実践

昨年度は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からリモート開催となりましたが、今大会は、2年ぶりに新横浜プリンスホテルでの実開催とWebでのリモート開催を並行し、合わせて約450名が参加しました。また、大会中には「県域サテライト企画」と題して、Webで視聴している参加者と本会場を中継し、各県域に設置したサテライト会場から日ごろのTAC活動や全国のTACに向けたメッセージを発信していただきました。

また開催報告は、日本農業新聞(2021年12月10日付)にも掲載しています。

TACパワーアップ大会2021の活動表彰では、TACトップランナーズJA表彰・1JA、JA表彰・4JA、TAC表彰・6名、JA特別表彰(出向く活動強化運動部門)・1JA、TAC特別表彰(努力・共感部門)・2名が表彰されました。
具体的な取組内容は、以下のとおりです。

TACパワーアップ大会 2021活動表彰

JA表彰

福岡県 JA筑前あさくら【全農会長賞】

豪雨被害の復興に向け、被災した柿農家に対し、JAが農地や施設を確保・整備するJAファーム事業を活用したアスパラガスの導入を提案した。新たに開設した3つの農場で計6名の入植者を受け入れ、アスパラガスの栽培面積・販売高の増加、アスパラガス部会の活性化につなげた。
また、大豆の収量低下に対し、TAC・営農指導員・県域職員で構成される「未来に向かう土づくりプロジェクト」を立ち上げ、土壌診断を活用した土づくり肥料の施用と省力化技術である部分浅耕一工程播種の提案をおこなった結果、増収・品質向上、播種労働時間・燃料消費の削減につなげることができた。
さらに、イチゴ農家からのパッケージセンターを将来にわたって利用したいとの要望にこたえ、イチゴのパック詰めとアスパラガスの自動選別ラインを備えた新たなパッケージセンターを設立した。イチゴ、アスパラガスの栽培面積の拡大に貢献するとともに、出荷調整作業からの解放による作業時間の確保により収量・品質の向上を実現した。

石川県 JA松任

農家手取り最大化の実践に伴い、経営の高度化に対応できる人材育成や労働環境整備などに取り組むため、経営体とJA・全農・その他関係機関との定例会議の定着をはかり、担い手との関係性の強化、効率的な作業管理改善を達成した。
また、法人化に不安を感じている農家に対し、5か年収支シミュレーションの作成や資金借り入れ相談への対応、記帳代行サービス、税務相談対応に関わる人材の配置など、担い手に寄り添った法人設立支援をおこなった。その結果、農業法人との信頼関係を構築、資金借入によるライスセンターの設置で大麦の作付拡大や、法人化後の会計処理の不安払しょくなどを実現した。
さらに、地域農業を支える担い手の声を反映し、農業情勢や管内農業の実情に即した「地域農業振興計画」を策定して今後のJA・農業者の道標を示した他、労働力不足解消に向けた無料職業紹介所・農業求人サイトの活用による労働力支援事業を展開し、求職者との面談を通じて条件にあった人材を紹介することで、質の高い人材の提供をおこなった。

兵庫県 JAたじま

担い手農家と実需者の声のマッチングによる多収穫米の作付拡大に取り組み、熟期の異なる品種の組み合わせによる作業分散および適期刈取りによる品質向上や、多収性品種導入による所得増大・JA出荷量の増加を実現した他、担い手農家を対象にした多収穫米技術研修大会や多収穫米選手権を実施することで、技術向上と生産意欲向上をはかった。
また、資材コスト低減の要望に応えるため、大型規格農薬と低コスト肥料をセット提案し、JA購買供給高を増加させることができた他、セット提案の価格メリットにより担い手のコスト低減につなげた。
さらに、口頭・電話での情報伝達では正確性に欠けること、紙ベースでの情報伝達ではスピード感に欠けることから、普及度の高いSNSであるLINEを活用することで、リアルタイムで確実な情報配信サービスを展開した。この取り組みは紙ベースの資料と異なり、映像の配信なども可能なため、多くの生産者に評価され、利用いただいている。

熊本県 JA阿蘇

新規就農希望の農業研修生に対し、指導的農業者とマッチングし、技術的指導をおこなう農業師匠制度の提案や、融資渉外員と連携した融資提案をおこなった。農業師匠の人的ネットワークの継承による地域のつながりの形成、効果的な融資提案による初年度からの安定的な経営を実現し、6年間で離農者0人となっている。
また、経営継続補助金の利用にともなう民間クレジット支払いによる高金利に悩まされている担い手に対し、低金利の農業資金への借り替え提案し、返済負担の軽減をおこなうとともに、他法人の経営状況の紹介、視察研修の実施、農機具実演会の開催など、法人化支援を積極的に展開した結果、新たに3法人の立ち上げにつながった。
さらに、資材コストは下がるものの、荷受場所の確保や荷下ろしにともなう機械の準備、ロットの制約など普段はハードルの高い肥料満車直行を、JA倉庫を活用することにより利用可能にしたJA一体型肥料満車直行企画を担い手に提案し、肥料のコスト削減につなげた。

TACトップランナーズJA表彰

TACの重点取組として、①地域・農家の課題解決に取り組み、新たな農業者の育成・確保と「農」に携わる人の増加、②主要品目の生産量と販売量の維持・拡大に向けた取り組み、③農家所得維持・拡大、を掲げ、JA管内農業の振興と活力ある地域農業の維持・発展をめざしている。
特産品の里芋の生産拡大に向けて、農家の規模に応じた機械化一貫体系の提案やドローン防除の作業受託などに取り組み、作付面積・販売高の拡大、生産者の増加につなげた(2020年大会)。
農家の高齢化、耕作放棄地の増加などに対応するため、新規就農サポート事業を展開し、オンライン就農相談等による新規就農者の募集、希望者への研修提案、農地斡旋などの就農支援を実施した。開始から今年で5年目を迎え、8名が卒業・就農し、地元に根付く新規就農者の確保に貢献している(2020年、2021年大会)。
労働力支援事業では、JA職員による「心耕隊(しんこうたい)」の結成やJA出資型農業生産法人の設立においてTACが労働力支援のコーディネートや新規就農者の雇用、農作業受託のパイプ役を担っている(2013年大会、2016年大会)。またコロナ禍で影響を受ける旅行会社JTBとの連携による生産者とのマッチングを開始するなど、取り組みを発展させながら、産地の維持・拡大に貢献している(2021年大会)。

TAC表彰

岩手県 JAいわて中央 
玉山 正彦 氏
『法人とTACが次世代へつなぐ取組み』

日本最大級の大型法人に対し、Z-GISによる圃場情報の共有化およびリモートセンシングによる水稲の生育診断を提案し、栽培管理のレベルアップをはかった。結果として適期作業による米品質の向上に貢献した。また、JAが法人化支援をして立ち上げた法人が抱える労働力不足に対し、Z-GIS・Z-BFMの提案による経営の見える化を提案し、事業承継や作付面積の適正化、正確な圃場管理といった課題の解決に向けて取り組みをすすめた。さらに、同法人が抱える繁忙期の人材確保の課題に対し、Z-BFMによる年間労働力のシミュレーションをふまえ、JAの無料職業紹介所を活用した人材確保の支援をおこなった。法人が希望する時期でのマッチングにより適期収穫を可能とし、収穫量の増加につなげた。

岩手県 JAいわて花巻 
髙橋 望 氏
『小さな雪国の地域密着型TAC活動』

耕作放棄地という地域の課題に挑戦する法人に対し、Z-GISによる圃場データの一元管理、farmo(ファーモ)による水管理・温度管理の省力化を提案し、効率的・省力的な圃場管理を実現した。また、高齢化にともない作業労力の削減を望む経営体に対して、担い手金融リーダーと同行訪問し、オペレータ資格取得費用や推奨セットの見積もり提案など、ソフト・ハードの両面からドローン導入を提案し、農薬散布作業の労力削減を実現した。さらに、雇用労働力確保を求める法人に対してJAの無料職業紹介所「アグリワーク」の活用を提案、またオープンファームを通じて農業大学校の学生からの採用が内定し、担い手の要望に的確にこたえることができた。

石川県 JA金沢市 
押田 哲男 氏
『担い手の持続可能な経営発展のために』

耕作放棄地の拡大抑制に向けて行政・JAが連携して設立した協業型法人の効果的な運営をめざし、露地品目拡大や補助事業の活用、農福連携などを通じて、労働力の確保と収益の向上を実現した。さらに果樹版協業型法人を設立し、融資提案による運転資金の確保や作業計画の策定の支援を実施、農地の集約と経営安定を実現した。また、行政・県本部と連携して「チームスマート」を結成し、Z-GISやリモートセンシング、ザルビオの導入による適期作業を実現させ、農家所得増大につなげた。加えて、それぞれの経営体が持つ課題に対応した事業承継支援を実践することで後継者確保につなげるとともに、融資の迅速化に向けた金融部門との連携強化に取り組んだ。

島根県 JAしまね 
原 紀行 氏
『大事なのは向き合うこと ~TACが架け橋に~』

地域において世代交代がうまくいかず、先延ばしにしているという実情を受け、JAとして事業承継支援をおこなっていることをチラシやのぼりでPRするとともに、事業承継ブックを活用した支援や、行政も参画して結成した支援チームによる事業承継計画策定後の支援をおこない、事業承継の取り組みを拡大した。また、事業承継後の農業経営に不安を抱えている後継者に対し、タブレットを活用した経営分析・改善提案や、融資相談・農業リスク診断活動を実施することにより、不安を払しょくすることに尽力した。さらに、高温で作業効率が落ちているという生産者に対し、MAFFアプリを活用した熱中症の注意喚起や、空調服の提案により、夏場の作業効率化と事故軽減につなげた。

島根県 JAしまね 
前田 晃弘 氏
『川本町ピーマン大作戦(ピーマン次郎物語)』

地域の農業人口の減少・高齢化やサル獣害による生産意欲減退の解決に向けて、サルの食害が極めて少なくバイヤーから需要のあるピーマンの産地振興を「ピーマン大作戦」と称し、町を挙げて取り組んだ。ピーマン大作戦では、行政への働きかけによる新規補助金の獲得や、青年連盟の協力による支柱設置作業支援、チラシや説明会など地域全体を巻き込むための周知活動の展開、乗車率の低い時間帯の町営バスを活用した「貨客混載事業」による新たな物流の仕組みづくり、地元小学校での食育活動など、様々な振興策に取り組むことにより、ピーマンの生産拡大をめざした。その結果、作付面積は約2倍となり、新規生産者14名の掘り起こしにつなげるなど、ピーマン大作戦を地域全体に拡散することができた。

岡山県 JA晴れの国岡山 
森 弘光 氏
『集落営農法人の部会組織化3年目取り組み加速は止まらない!』

集落営農法人部会からの圃場管理や土壌改良の要望に対し、土づくり研修会や土壌診断を契機としたZ-GISやリモートセンシング「天晴れ」、GPSナビキャスタなどのスマート農業の導入支援や作業受委託の提案により、資材費圧縮や作業効率向上を実現した。また、同部会からの米の安定販売を望む声に対し、里海米の生産拡大やロット確保のために出荷目標を5,000俵とした達成奨励金を提案した他、需要減少に対する飼料用米への作付転換、大手ファミレスなどとの契約栽培により、農家所得の向上・安定化に寄与した。さらに道路交通法の規制緩和にともなう大型特殊免許の取得支援の要望に対し、免許取得講習会の実施や講習費用の補助金活用提案による取得率の向上に取り組んだ。

JA特別表彰(出向く活動強化運動部門)

秋田県 JAこまち

担い手の意見・要望の対応結果の整備では、営農指導員や営農センター職員もTACシステムを活用することで、進捗管理や情報共有の幅を広げることができ、一体感を持って担い手からの意見・要望に対応できた。また、他部門や役員への活動報告により、「活動の見える化」につなげた。
総合力を活かした施策提案では、JA・全農が一体となった総合的支援の構築強化を目的に「JA事業推進プロジェクト」を立ち上げ、担い手情報シートの作成や関係部署の同行訪問により、総合的視野とスピード感をもって課題解決に取り組んだ。さらに、実績集計や経営分析により、課題の明確化・共有をはかった。
これらを通じて提案型の訪問が増え、担い手にとっての有利販売・生産性向上につなげることができた。

TAC特別表彰(努力・共感部門)

埼玉県 JA埼玉ひびきの 
野平 巧 氏
『継続訪問による低利用農家との関係構築とJA利用率向上』

JA低利用農家に対し、県域担い手サポートセンターと連携して継続訪問を実施した。イチゴ栽培では光合成促進機の提案や栽培指導をした他、露地栽培品目では収量・品質の安定のために土づくりの提案をした。その後、イチゴではハウスの日照不足に課題があったため、キュウリへの作物転換を提案した他、露地野菜では新規栽培のネギの品種選定から収穫時期までの栽培指導を実施、その他露地品目の集約、JAの共販出荷の提案をした。特にキュウリの売上は1年で4.7倍に増加した他、土づくり提案による担い手の意識向上、ネギの栽培面積拡大などを達成し、担い手からも「親身になってくれて感謝している」との声が聞かれるようになった

佐賀県 JAさが 
久保 喜久男 氏
『営農組合の発展的支援策と農業者応援事業の提案による、JA未利用・低利用者の呼び戻し』

中山間地の集落営農組合組織に対し、TACが集落ごとの話し合いの場づくりとアンケート調査を実施した。挙げられた課題に対し、農地の担い手の明確化、遊休農地解消、人員確保などに取り組み、構成員の課題解決に繋げた。また、生産資材について、JA独自事業による機械導入支援などにより、「JAは高い」というイメージの払しょくや商系呼び戻しに貢献した。
JAと組合員との関係希薄化が問題となっていたため、最低月1回の訪問を実施した。当初は担い手から厳しい声が挙がり、JA資材が高いイメージの払しょくもできなかったが、JA独自事業や、肥料の事前大口予約購買、大型規格農薬などの提案で、根気強くコスト低減に向けた説明をおこなった結果、JAへの信頼回復につなげた。

Get Adobe Acrobat Reader

PDFファイルをPDFファイルをご覧になるにはアドビシステムズ社より無償で配布されているAdobe Readerが必要です。お持ちでない場合は、の"Get Adobe Reader"アイコンをクリックしてください。