土壌肥料用語集

か行

可給態

有効態」を参照。

加水酸度 (加水分解酸度)

土壌に酢酸カルシウムのような弱酸の塩溶液を加えたときに現れる酸性である。カルシウムと交換浸出された水素イオンは酢酸となるが、酢酸の解離度が低く土壌粒子に再吸着されないため、交換酸度よりも酸性は強く測定される。土壌の潜在的な酸性の程度を示す性質として重要である。交換酸度は土壌酸性化がある程度進行してから現れるのに対して、加水酸度は酸性化の初期から現れる。

下層土

表土または作土の下の層をいう。通常は表土に対して下層土といい、作土に対しては心土ということが多い。下層土の肥培管理は、生産性を高めるばかりでなく、土壌のもつ環境容量を高めるうえからも重要である。

可溶性成分

肥料の場合、一定の溶媒(水、クエン酸、希塩酸など)に溶解する成分の量で評価することになっており、これを可溶性成分という。通常は肥料の有効成分と考えてよいが、厳密な意味で可溶性成分がすべて有効とは限らず、また逆に可溶性成分でなくても条件により植物が吸収利用する可能性を否定することはできないことから、このように表現している。成分により、浸出溶媒、浸出法は厳密に規定されている

可溶性苦土(S-MgO)

0.5M塩酸と煮沸して溶解するマグネシウム(苦土)をいい、MgO%で表示する。炭カル(苦土炭カル)など主として土壌酸性矯正のために使われる石灰質肥料の評価に用いられ、このMgOを当量のCaOの量に換算し(係数1.3914を掛ける)、可溶性石灰の量に合計してアルカリ分として保証する。

可溶性ケイ酸(S-SiO2)

30℃の0.5M塩酸に溶解するケイ酸をいい、SiO2%で表示する。ケイカル、ようりん、ケイ酸カリ肥料などの有効ケイ酸として保証する。シリカゲル肥料では希塩酸には溶解しないことから、0.5M水酸化ナトリウム溶液に溶解するケイ酸(SiO2)をも可溶性ケイ酸と称して評価に用いることになっている。

可溶性石灰(S-CaO)

0.5M塩酸と煮沸して溶解するカルシウム(石灰)をいい、CaO%で表示する。石灰質肥料ではアルカリ分で成分を保証するが、これらの肥料中のマグネシウムはカルシウムと同じ酸性矯正効果があるため、可溶性石灰と可溶性苦土をそれぞれ測定し、後者については石灰の量に換算してアルカリ分とする。

可溶性マンガン(S-MnO)

0.5M塩酸と煮沸して溶解するマンガンをいい、MnO%で表示する。従来、肥料中のマンガンの評価には、水溶性マンガンとク溶性マンガンを用いていたが、炭酸マンガン(菱マンガン鉱)では、いずれの方法でも溶解性が低かった。しかし、そのマンガンは植物により吸収利用され有効なことが判明したことから、炭酸マンガン肥料の公定規格を設定するに当たり、希塩酸を用いた可溶性で評価することになった。

可溶性リン酸(S-P2O5)

肥料中の有効性リン酸のひとつ。過リン酸石灰、重過リン酸石灰、複合肥料 (リンアンなど)のリン酸を評価するのに用いられる。アルカリ性クエン酸アンモニウム溶液(ペーテルマン溶液)に溶けるリン酸をいい、水溶性成分は内数となる。水溶性リン酸は、過リン酸石灰では遊離リン酸、リン酸一カルシウム、複合肥料の場合にはリン酸一アンモニウム(MAP)、二アンモニウム(DAP)などであるが、アルカリ性クエン酸アンモニウム液には、リン酸二カルシウム、リン酸鉄・アルミニウム塩の一部が溶解し、これらも有効と考えられている。リン酸質肥料の評価法として、ドイツ、オランダなどでも用いられているが、アメリカのAOAC法では中性クエン酸アンモニウム溶液による方法が用いられており、測定結果も同じにはならない。

カリ(加里)質肥料

肥料三要素のうちカリのみを保証する肥料をいう。塩化カリ、硫酸カリ、硫酸カリマグネシウム(苦土)が代表的な肥料である。

環境保全型農業

農業は食料の安定生産・供給という本来の役割に加えて、環境と調和した産業として水と緑を保全し、豊かな国土を形成する機能の発揮が期待されている。一方、肥料、農薬の過剰使用、不適切な使用により環境へ悪影響をしている場合もみられることから、これらの負荷を軽減し、より環境と調和した農業とすることが求められている。このような状況から農林水産省では、「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」を環境保全型農業と定義し、推進している。環境保全型農業にはいくつかのレベルが想定されており、有機農業もこの一つの形態として位置づけている。

還元層(水田土壌の)

たん水下の水田では、空気の供給が不十分となり、土壌のごく表層(酸化層)を除いて、土壌が酸素不足の状態(還元状態)になる。この層では、鉄、マンガン、硫黄、窒素などは還元された形態に変化する。

緩効性肥料

水溶性で速効性の肥料に対して、肥効がゆっくり現れる肥料を総称して緩効性肥料という。肥効が最初からゆっくり継続的に現れるタイプと、始めはほとんど肥効が現れないが一定期間後効果が現れるタイプ(遅効性肥料ともいう)に分けられる。また緩効的にする手段で、化学合成系の肥料と被覆肥料、さらには硝酸化成抑制剤入り肥料などに分けることができる。

緩衝作用(土壌の)

たとえば土壌に酸を加えたとき、土壌pHが下がるが、同じ量の酸を加えても土壌によってpHは異なり、砂質土壌では大きく低下し、火山灰土壌や有機物の多い土壌では低下の程度は小さい。このように変化を小さくする作用を緩衝作用という。この作用はpHばかりでなく、有害物質を与えたときの植物の反応などでもみられる。

含鉄物

褐鉄鉱(沼鉄鉱を含む)、鉄粉、鉄分を 10%以上含有する鉱さいまたは岩石の風化物をいう。特殊肥料になる。秋落ち水田で発生する硫化水素の害を軽減させる目的で施用される。

乾田

稲収穫後の冬期(麦まきのころ)に、普通程度の降雨3~4日後に、水田の表面が乾いているか、湿ってはいても歩いたときに足跡が明瞭につかず、また夏期においては自由にかんがい水が調節でき、中干しをすると数日で田面が乾燥する水田をいう。排水良好田。

乾土効果

土壌を風乾すると土壌中の有機物が分解しやすくなり、また微生物の一部が死滅して有機物が分解される。このような土壌に水を加えて保温静置すると有機態窒素は無機化してアンモニウムが生成される。同じ操作を未風乾土について行い、両者のアンモニウム生成量の差を測定し、これを乾土効果という。

拮抗(きっこう)作用(養分の)

植物養分が根で吸収されるとき、共存するほかの養分が吸収を阻害する現象をいう。一価の陽イオン(カリウム、アンモニウム)と二価の陽イオン(マグネシウム、カルシウムなど)の間で顕著にみられ、特にカリウム過剰でのマグネシウム欠乏の発生が典型的である。この拮抗作用は一価の陽イオンの影響が大きく、逆に二価の陽イオンの影響、たとえばカルシウム過剰でのカリウム吸収抑制はあまり顕著ではない。
この現象と逆に窒素を施用するとリン酸の吸収が増加するような現象は相乗作用と呼ばれる。

基肥重点施肥

緩効性肥料を用いると追肥が省略できる可能性があり、このようにして基肥のみまたは基肥に1回程度の追肥で栽培する施肥法をいう。窒素の溶出(または無機化)の速度が作物による窒素吸収の速度とマッチすることが必要である。このような施肥法によると追肥作業が省力できるばかりでなく、作物根域における養分濃度を最適に長期間保つことが可能になることから肥料の利用率が向上して減肥ができ、さらに慣行施肥法の場合にくらべて増収になることも期待できる。

客土

土壌の理化学性を改良するために、ほかの優れた性質をもつ土壌を施用することをいう。老朽化水田の改良のため鉄・塩基成分などの多い山土を客土するとか、砂質土や泥炭土へ優良粘土の多い土壌を客土する、あるいは重粘土壌などへ砂客土するなどの例がある。

キレート化合物

同一分子内にある2個以上の配位基により金属原子と結合することにより、環状構造をつくるのをキレート作用といい、できた結合化合物をキレート化合物という。その構造が金属原子を蟹の鋏(ギリシャ語のキレート)ではさむような形になることから命名された。

吸収(土壌による)

溶液に固体を加えたとき、溶液中の物質(溶質)がその固体に吸われることがあるが、この場合、溶液中の濃度と固体中の濃度が変わらない場合が吸収であり、固体の表面などで濃度が高まる場合は吸着という。ただ土壌の場合には吸収と吸着が必ずしも区別されていなく、リン酸溶液に土壌を加えたときのリン酸の溶液から土壌への移行をリン酸吸収という。土壌に養分が強く結合し土壌溶液中の濃度が低下すると、植物の利用が低下する。リン酸の場合にはこのような利用率の低下がいちじるしく、しかもリン酸吸収の程度は土壌により大きく異なり、火山灰土壌では特に大きい。この性質を表すために測定するのがリン酸吸収係数である。この係数が大きいのは火山灰土壌、またはその影響を受けた土壌と考えられる。

近赤外分析

700~3000nmの波長域を近赤外領域というが、このうち1200~2500nmの波長を利用した分析法。有機物中の官能基はこの波長域で特有のスペクトルをもつことから、試料に照射した光の反射光のスペクトルを解析して多くの成分を測定できる。試料を非破壊で迅速に分析できるので、飼料、食品、家畜排泄物、土壌などの成分分析に広く利用されている。食味とか飼料の消化率など本来スペクトルをもつものでなくても、これらの性質に関連する多くの成分の測定値との重回帰解析により測定が可能になっている。ただし成分・品質分析のいずれにおいても、検量線作成に用いた試料と同じ特性をもった試料でなければ正確な結果が得られるとは限らないことに留意する必要がある。

苦土

マグネシウムのこと。肥料の成分としてはMgO%の量で表示する。植物養分として重要(マグネシウムの項参照)であるほか、石灰質肥料、ケイカルなどの塩基性苦土は土壌の酸性矯正に役立つことから、MgOを石灰(CaO)の量に換算してアルカリ分として保証の対象となる。
マグネシウム」を参照。

ク溶性成分

肥料の成分のうち、2%クエン酸に溶解する成分をいう。水溶性成分とともに植物が吸収・利用できる成分と考えられる。リン酸(C-P2O5)、カリ(C-K2O)、苦土(C-MgO)、マンガン(C-MnO)、ホウ素(C-B2O3)について有効成分として指定されており、保証の対象とすることができる。

グラステタニー

牛、羊などの反すう動物の代謝異常にもとづくけいれん麻痺症状をいい、死に至ることもある。早春の放牧中、妊娠または泌乳中の雌牛におこりやすい。血液中のマグネシウム濃度の低下に原因があり、牧草中でマグネシウム濃度が低い場合のほか、カリ濃度が高いと拮抗作用でマグネシウムの吸収が抑制されグラステタニーが発生する。このため牧草中のK/(Ca+Mg)の当量比が2.2以上、Mg濃度が0.2%以下では要注意であるといわれている。

クロロシス

植物中の葉緑素生成が抑制され植物が黄色になること(黄化現象)をいう。葉緑素を構成する要素は炭素、水素、酸素以外に窒素、マグネシウムがありこれらが不足すると葉緑素ができなくなる。また鉄、マンガンも葉緑素の生成に関係することから、不足するとやはり葉緑素の生成が抑えられる。このような要素により発生するクロロシスは、作物の種類、要素によって特徴があり、生育中の作物の栄養診断を行ううえで重要な現象である。

グライ層

土層のうち、還元状態となり鉄が二価鉄となって青灰色、淡青色、帯緑色を呈する土層をいう。鉄は酸化状態では三価の化合物となっており、褐色となるが、地下水位が高く過湿となったり、水が停滞しているところでは、通気が不十分になり、還元状態となってグライ層ができる。水田の下層にはこの層がよく現れる。

ケイ酸植物

好ケイ酸植物」を参照。

減水深(げんすいしん)

たん水した水田で、たん水深の低下の速度をいい、普通1日当たりのmmで表示する。この減水深は、田面からの蒸発量、水稲葉面からの蒸散量、土中への浸透量の合計である。蒸発量、蒸散量は季節(気温)、水稲の生育時期などにより決まるが、浸透量は土壌の性質により異なる。減水深の大きな漏水田では多量の水を要し、水温が上がりにくいため水稲の生育は遅れやすく、また溶脱が多いため地力の低下も顕著となりやすい。逆に減水深の小さい湿田では、通気が不足して酸素欠乏となり、異常還元で根腐れが発生しやすい。水稲の生育にとって適正な減水深は20~30mmといわれている。

交換酸度

土壌に塩化カリウムのような塩溶液を加えたときに現れる酸性をいう。測定法を考案した大工原(だいくはら)氏にちなんで、大工原酸度ともいい、置換酸度とも呼ばれた。

交換性塩基

土壌コロイドに吸着され、かつ容易にほかの陽イオンと交換することができる塩基(陽イオンのうち水素イオンを除いたもの)をいう。置換性塩基とも呼ばれた。土壌コロイドは通常の条件ではマイナスの荷電をもっているので、プラスの荷電をもつカルシウム、マグネシウム、カリウムなどの陽イオンが吸着されており、これらを個々に交換性カルシウム(石灰)、交換性マグネシウム(苦土)、交換性カリウム(加里)などといい、これらを合わせたものが交換性塩基である。交換性塩基を多量に含む土壌は一般に肥よくであり、アンモニウムなどの肥料成分を交換吸着して保持する力が強い。

好カルシウム植物

好ケイ酸植物に対比して用いられる用語。ダイズなどのマメ科植物はカルシウムの吸収量が比較的多く、一方ケイ酸はほとんど吸収しないのでこれを好カルシウム植物(または石灰植物)という

高機能性肥料

肥料の本来の機能は養分の補給であるが、これ以外に、たとえば有用微生物活性を高めることなどにより、土壌病害虫の軽減にも役立つことができれば多機能性肥料といえる。農薬入り肥料、植物生長調節剤(節間伸長の伸びを抑制し倒伏軽減となるものなど)など多様なものが考えられる。肥効調節型肥料のように肥効の発現を調節した肥料も、肥料の機能を高めていることで高機能性肥料と考えられる。

好ケイ酸植物

同じ培地で生育させても植物中の無機成分量は植物の種属などによって大きく異なる。特にケイ酸とカルシウムの吸収特性は植物による特徴が明らか であり、水稲などのイネ科植物はケイ酸の濃度が高い特徴があり、これを好ケイ酸植物(または単にケイ酸植物)という。好カルシウム植物に対比して用いられる。

こう積層

堆積した層序(年代)により地層を区別することがあるが、新生代第四紀のうち、現在から約1万年~約160万年前の期間をこう積世(現在は更新世という)と呼んでおり、この時期に堆積したと考えられる地層をこう積層という。沖積層が堆積した時期より前の時代になり、火成岩や第三紀以前の堆積岩やその風化物が更新世に運積された非固結物の地層である。一般に平坦ないし波状の海成・河成段丘に分布するが、分布面積はさほど大きくはない。沖積層土壌よりは古く、また第三紀以前の母岩に由来する土壌に比較して侵食の影響が少ないので土壌の保存状態がよいため、土壌層位の分化が進んでいる。重粘で固くしまり、透水性が劣り、酸性で肥よく度の低い土壌が多い。

肥持ち(こえもち)

施用された肥料の効果の持続性をいう。水溶性で速効性の肥料では肥料の吸収は速いが、反面効果が長続きしなく肥切れが比較的速い。これに対して、有機質肥料(油かすなど)や緩効性肥料では肥効が持続するので肥持ちがよいという。水溶性の肥料であっても、土壌に腐植などが多く陽イオン交換容量が大きいと、肥料成分が吸着保持される量が多く肥効の持続性がよくなるので肥持ちがよい土ということができる。

肥焼け(こえやけ)

肥料が直接植物葉に付着した場合に茎葉部が部分的に変色、または枯れ上がることがあり、これを肥焼けという。また肥料の多量を根の近傍に施用した場合、土壌溶液中の塩類濃度が高まり、作物の吸水が阻害され、あるいはある成分が多量に吸収された結果として作物が萎縮または枯死することがあり、これも肥焼けという。あとの場合は塩類障害、あるいは濃度障害ともいう。

根圏土壌

植物根の周辺の数mmの範囲の土壌は、根から離れた部分にくらべてかなり違った性質がある。すなわち根圏土壌では、(1)根の呼吸作用にともなう二酸化炭素の生成と酸素の消費、(2)養水分の作物による吸収による養分の濃度勾配の生成とpH変化、(3)根からの分泌物による影響、(4)有機物が多くなるため微生物活性がいちじるしく高まっているなどの差を見いだすことができる。根圏土壌は根と土壌のインターフェイスの役割を果たしているともみられ、その性質に興味がもたれている。

その他の用語

あ行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行