土壌肥料用語集

ら行

硫化水素

硫黄化合物が還元されたときに発生する無色の気体(H2S)である。卵の腐ったときの悪臭物質。たん水した水田では夏季に土壌が還元的になるが、その還元程度が強いと発生する。湿田や有機物を多量に施用した場合に強還元になりやすく、土壌中に存在したあるいは肥料に由来した硫酸イオンが還元されて硫化水素が発生する。硫化水素は呼吸毒であり、その結果、養分吸収が阻害され根腐れの原因となる。土壌中に鉄やマンガンがあると、硫化水素はこれらと結合して不溶性の硫化鉄、硫化マンガンとなって沈殿するので、その害作用は抑制される。

流亡

水によって耕地から土壌成分や施肥養分が失われることをいう。下層土への溶脱、地表面での流去あるいは侵食にともなう損失がある。降水量の多い地域、特に降雨強度(時間当たりに降る雨量)が大きい地域では流亡による養分の損失は大きい。尿素や硝酸塩のように土壌に吸着保持されない養分や、塩基のように吸着されても火山灰土壌のように保持力の小さい場合、あるいは砂質土などの吸着容量の小さい場合には流亡の程度が大きい。

緑肥

植物体を堆肥化することなく、切断した程度でそのまま土壌にすき込み、土壌中で分解させて次作物に養分を供給し、あるいは土壌に有機物を補給し物理性の改善を図るレンゲなどの作物をいう(緑肥作物あるいは青刈り作物)。緑肥作物としてマメ科植物を利用すると根粒菌が固定する窒素の補給が期待できる。有機物の補給の目的ではトウモロコシ・ソルゴーなど生育量の大きな作物を利用する場合がある。そのほか、クロタラリアは深根性なので土壌物理性が改善される効果と茎粒で固定される窒素の補給が期待できる。マリーゴールドをすき込むのはセンチュウ対策を考えている。いずれも環境保全型農業で有効な技術であるが、緑肥を栽培した1作期間の現金収入がなくなるので、景観植物としての効果とあわせて実施する事例がある(トウモロコシ畑で迷路をつくったりヒマワリを栽培して観光客を呼ぶなど)。

リン酸吸収係数

土壌が吸収して固定するリン酸の量を評価する指標。乾土100gに吸収されるP2O5の量(mg)で表す。この値は火山灰土壌で大きく1500以上に達することから、火山灰土と非火山灰土の区別に用いることもある。リン酸吸収係数の大きな土壌では、水溶性のリン酸を施用し土壌と混合すると、すぐに固定される(アルミニウムなどと結合して沈殿するため)ので、肥料の効果が持続しない。このような土壌に対しては有機物を施用するか、あるいは多量のリン酸肥料を施用して土壌のリン酸固定能力を弱めることが有効である。また施用する肥料としては粒状化して固定されるのを少なくする、あるいはようりんなどク溶性リン酸を保証する肥料を使うのがよい。

リン酸質肥料

三要素のうちリン酸だけを保証する肥料。三要素以外のマグネシウム(苦土)、アルカリ分なども保証することができる。リン鉱石を原料とし、酸処理、または熱処理により、リン酸を植物に吸収できる形態にしている。過リン酸石灰、ようりん、焼成りん肥(重焼りん)などが代表的な肥料である。

リン酸の戻り

水溶性のリン酸が非水溶性になることをいう。過リン酸石灰では難溶性のリン鉱石を硫酸と反応させて水溶性のリン酸一カルシウムを主体とした肥料としている。これにアンモニアを反応(アンモニア化)させたり、石灰類と混合するとリン酸一カルシウムは非水溶性の二カルシウム塩または三カルシウム塩(あるいはアパタイトなど)に変化し、リン酸の溶解性が低下する。これを「戻り」という。(還元という場合もあるが、この場合は酸化還元の反応でないので正しくない。)

連作障害

同一作物、または近縁の作物を連続して栽培したときにみられる生育障害をいう。土壌病害虫による障害の場合が多いが、土壌の理化学性が悪化した場合もあり、それによって対策も当然異なる。

老朽化水田

漏水の多い水田では粘土や土壌成分の多くが下層に流れ失われている。砂質で排水のよい水田でよくみられ、土壌断面をみると作土では鉄が少ないため灰色となり、溶脱した鉄などはすき床から下に移行し、そこで集積している。粘土が少なくなっているので養分の保持力も乏しく、肥切れしやすい。また鉄、マンガンなどが溶脱して少なくなっているので、還元状態で硫化水素が発生しやすく、根腐れが生じて水稲は秋落ちとなる。老朽化水田の改良法としては、山土の客土、天地返しのほか、含鉄資材、ケイカル、完熟堆肥、アヅミンなどの施用が効果的である。

漏水過多田

俗に「ざる田」と呼ばれる。砂れき、あるいは火山灰に富み、水持ちの悪い水田をいう。このような水田は土壌では陽イオン交換容量が小さく、施肥成分が溶脱しやすい。また、たん水の温度が上昇しないうちに漏水してしまい、たえず冷水でかんがいすることになりやすく、生育が遅れて収量が上がらない場合が多い。漏水過多というほどではないが、透水性が大きく、減水深が大きすぎる水田は漏水田という。

その他の用語

あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 わ行