土壌肥料用語集

た行

第三紀層(土壌)

第三系堆積岩を母岩として生成した土壌で、古生層、中生層より新しく、第四系(こう積層、沖積層)よりも古い地層をいう。中生層土壌よりも傾斜のゆるい丘陵に分布している。一般に細粒質で透水性・排水性が不良で重粘な土壌である。改良のためには酸性矯正と堆きゅう肥などの有機物の施用が有効である。

脱窒(作用、現象)

還元的土壌では硝酸態窒素は主として脱窒菌の作用により酸素が奪われ、窒素酸化物(NO、NO2など)や窒素ガス(N2)となり、大気中に放出される現象をいう。水田で硝酸塩の肥効が低い原因となる。アンモニウムを施用した場合でも、水田土壌の表層の酸化層で硝酸化成がおこって硝酸が生成し、これが水の移動にともなって還元層に移り、ここで脱窒する。そのため全層施肥により還元層へ施用すると肥効が高くなる。
脱窒は畑土壌でもおこり、アンモニウムが硝酸化成を受ける中間過程で亜酸化窒素(N2O)などが揮散する。また亜硝酸塩が集積するとこれが分解(酸性で激しい)し、窒素酸化物を揮散する。亜硝酸の分解は非微生物的に進行するので化学的脱窒といい、ハウスなどでの亜硝酸ガス(酸性ガス)障害の原因となる。

炭素-窒素比
炭素率

C/N比」を参照。

団粒構造

土壌は大きさや形がまちまちの一次粒子の集合体と考えられ、この一次粒子がさらに粒団(二次粒子)をつくっている。一次粒子が粒団を形成せずに存在している状態を単粒構造といい、二次粒子の粒団、あるいはこれがさらに立体的な構造を形成している状態を団粒構造という。団粒構造には大小さまざまな孔隙があり、大きな孔隙は通気性に、小さな孔隙は保水性に寄与し、土壌に適度な物理性をもたらす。排水性もよくなり、雨水の浸透性もよくなることから、水侵食に対する抵抗性も高くなる。このような構造は微生物の生息にも好適であり、植物への養水分の供給が促進される。
団粒の形成には粘土粒子、鉄・マンガンなどのコロイド状酸化物、土壌生物の代謝産物である粘質性有機物などが関与するので、有機物の施用が効果的であるほか、ポリエチレンイミン系やポリビニルアルコール系の資材なども有効である。

地下水位

土壌中のある深さ以上では水が飽和以上に存在している。この土壌粒子のすき間を満たし、重力の作用に支配されて運動している水を地下水といい、大気圧と等しい圧力をもつ面を地下水位(地下水面)という。地下水位の高さは作物の生育に大きな影響があり、地下水位が高いと水田では湿田となり、また畑地では湿害や根腐れの発生に関係する。転換畑での作物の選定の場合にも地下水位を考慮する必要がある。

置換酸度

交換酸度」を参照。

置換性塩基

交換性塩基」を参照。

地球温暖化

人間活動により、二酸化炭素、メタン、フロン類、亜酸化窒素などの排出が増加しているが、大気中でこれら温室効果ガスの濃度が上昇すると気温が上昇すると考えられており、このような現象を地球温暖化という。気温上昇は人類を含む生態系に大きな影響をすると考えられる。寒帯地域では農業の生産性が高まることも予測できるが、ほかの地域では気象条件の変化、適作物・適品種が変わり生産性は低下すると予測されている。温暖化により、海水面が膨張し、また極地の氷山が融けて海水面が上昇することも予想され、低海抜地帯の水没や、かん排水施設がだめになることも考えられ、影響はきわめて大きい。

窒素固定菌

空中窒素(N2)を生物的過程で有機態または高等植物が容易に利用できる形態に変える能力をもつ菌をいう。マメ科植物と共生して窒素固定を行っているのが根粒菌であり、宿主の植物が光合成でつくる糖類などをもらってそのエネルギーで窒素を固定し、それを宿主に返して植物の生育に役立っている。また固定菌が独立で窒素固定をする場合があり、アゾトバクター、クロストリジウム、ラン藻類がある。水田土壌では、ラン藻類による固定窒素の役割は無視できず、またアナベナ属のラン藻が共生するアゾーラ(アカウキグサ属の水生シダ)の窒素固定を利用する研究が東南アジアの水稲を対象に行われている。ただし、高収量水準のわが国では、藻類の繁茂は水温を低下させ、アゾーラは雑草となるなど、窒素固定菌の利用には限界がある。

窒素質肥料

三要素のうち窒素のみを保証する肥料。三要素以外ではアルカリ分などを保証する石灰窒素もこの類別にはいる。アンモニア性窒素(アンモニウムのこと)を保証する硫アン、塩アンなど、硝酸性窒素を保証する硝酸ナトリウム、硝アン(硝酸とアンモニアの両者)などのほか、尿素、石灰窒素、緩効性窒素肥料などでは窒素全量で保証する。

ち密度(土壌の)

土壌粒子がどの程度密に詰まっているか、その度合いをいう。土壌構造をつくる三相構造(固相、液相、気相)のうち、固相率は、ち密度を表す指標となる。一般に固相率が、火山灰土壌で25%以上、非火山灰土壌で55%以上となると土壌の硬度が高く、ち密度が大きくなり、土壌の透水性や通気性がいちじるしく低下して、作物根の伸長が阻害される。地力増進基本指針では、水田のすき床層のち密度を山中式硬度で14mm以上24mm以下、主要根群域の最大ち密度は24mm以下、普通畑では主要根群域の最大ち密度は22mm以下などとしている。

沖積土(沖積層土壌)

地質的に年代がもっとも新しい第四系完新統(かつては沖積層といった)を母材として生成した土壌をいう。その大部分は現在の河川の作用でできた軟らかい堆積物である。層位の分化は弱く、土壌の性質は母材の影響が強い。一般に養分が多く、保水性も高い。河川流域や海岸平野に広く分布しており、水利条件がよいことから水田として利用されている場合が多い。ただし地下水位が高いため、排水不良水田となることもある。

地力

作物の生産に役立つ土壌の能力をいい、土壌の物理的、化学的、生物学的な性質が総合されたものである。土壌には、母材など土壌生成にかかわる因子で決まり、人為的に動かしにくい性質と、土壌管理などの人間の営農努力などにより改善される性質がある。この後者に含まれる土壌養分の持続的な補給能力を狭義の地力という場合があり、肥料から供給される養分と区別している。
いずれにしても、作物の生産を長期安定的につづけるためには、地力の低下を未然に防ぎ、さらに増強するように、作付けや肥培管理を行うことが肝要である。

土の硬さ

土の硬さとは、加えられた外力に対する土壌の抵抗力と考えられ、植物の根張りや農業機械の走行性などに影響する。その測定には、山中式土壌硬度計を用いるのがもっとも簡単である。この硬度計は先端部の円錐体を土壌に差し込むときに必要な力を、計尺の目盛り(mm単位)で読むものである。耕起時にすぐ崩れるごく粗しょうな土壌ではこの硬度計の読みは7mm以下であり、耕起が非常に困難な土壌は20mm以上となる。植物の根は25mm以上ではほとんど伸長できない。
ち密度(土壌の)」を参照

土づくり肥料

作物の養分を直接補給して生育を促進するのではなく、土壌の酸性矯正やリン酸・塩基の補給などによって土壌の化学的性質を改善し、ひいては作物の生育を改善することを主な目的とする肥料をいう。これらは肥料取締法でいう普通肥料であるが、慣習的に土壌改良材と称していた歴史があり、その後地力増進法が制定されて土壌改良資材の定義が明確になったときに、この土づくり肥料という言葉がつくられた。

低投入持続型農業

化学肥料、農薬などの化学品の使用を最小とし、耐久性に問題のある資源への依存度をなくして、生産の持続性(永続性)を高めようとする農業形態をいう。植物養分については、物質循環を重視するとともに、輪作やマメ科植物の緑肥利用により窒素を補給することに主眼がおかれている。化学集約農業に対する反省を出発点としているが、耕地面積が限定されたわが国では実施が困難な点が多い。英語の略語でLISA(リサ)と呼んでいたが、LISAは本家のアメリカ農務省でも現在は使っていない。
環境保全型農業」を参照。

テクスチュロメーター

食品の歯ごたえ、かみごたえ、歯切れ、歯ざわり、口ざわり、舌ざわりなどを食品のテクスチュアというが、この測定のために開発された装置をテクスチュロメーターという。そしゃく運動をモデル化した装置であり、これに食品をはさみ、圧縮するときの変形を測定し、得られる曲線から食品の硬さ、もろさ、粘着性などを評価する。米の食味、食肉の変性程度の判定などに用いている。

天然供給量

土壌、かんがい水、雨水などによって作物に供給される養分の量をいう。この天然供給量の多少により、肥料・有機物などとして供給する必要がある養分の量が決まる。水田が畑に比較して肥よくであり生産性が高いのは、多量のかんがい水からの天然供給量があり、また水田で土壌有機物の分解が遅いため土壌からの窒素成分などの供給量が持続的につづくからである。

電気伝導率(EC)

水に塩類が溶けると電気が伝わりやすくなり、その程度を電気伝導率で表す(EC、電気伝導度ともいう)。解離度の大きい塩類では、その濃度とECは比例するから、土壌中の塩類濃度を示す尺度としてこのECが用いられる。通常は、土に5倍量の水を加え、えられる溶液についてECメーター(電気伝導率計)で測定し、この測定値の読み(単位はミリジーメンス毎センチメートル、mS/cm)を指標としている。なお最近はSI単位を用いてdS/m(デシジーメンス毎メートル)で表すことも多くなっているが、数字は同じである。

田面水

たん水した水田の表面にある水をいう。田面水の温度や深さは水稲の生育、収量と関係が深い。水稲生育の初期には田面水を深くすることにより温度の低下を防止できるし、昼間落水、夜間たん水によって保温効果を高くすることもできる。また、養分の天然供給や流亡とも関係し、適切な水管理は収量確保あるいは環境負荷との関係で重要である。

透水係数(土壌の)

土壌の透水性(浸透性)を表す尺度である。通常、飽和透水係数(cm s-1)をいい、土壌カラムに水を満たして下部から水を抜いたとき、1秒間に低下する水層の高さ(cm)を意味している。

土壌の透水性の良否と透水係数の関係はつぎのとおりである。

透水係数(cm s-1) 透水性
>10-1 高い
10-1~10-3 中くらい
10-3~10-5 低い
10-5~10-7 非常に低い
<10-7 実質的に不透水

なお緑地造成などでは、透水速度、または透水距離といい、透水係数から換算したmm h-1、またはcm d-1の値を用いている。また育苗培土での透水速度は、透水係数の測定に用いる定水位試験法に準じた方法で、一定量の水が透水する時間で評価している。

倒伏

風や雨により作物が倒れることをいう。稲、麦、トウモロコシなどは出穂以後に、またダイズなどでは開花期以後の、地上部の重くなる時期に倒伏しやすい。機械収穫が困難になり、減収となるばかりでなく、収穫物の品質にも大きく影響する。倒伏を防ぐためには、倒伏抵抗性の高い品種を選び、窒素施用量に注意して過剰にならないようにすることが必要である。カリの施用は稈の強化や根の発達を促進して倒伏の軽減になり、またイネ科植物ではケイ酸の補給も稈の強化を図るうえで有効である。

土壌改良資材

土壌の性質のうち、物理性および生物的な性質を改良して、土壌の肥よく性を高め、作物生産力を上げる目的で土壌に施用される資材をいう。これに対して土壌の化学性を改良するのは肥料と定義されている。
地力増進法にもとづいて適正な表示を義務づけるように政令で指定される土壌改良資材と、指定の対象になっていない土壌改良資材がある。

土壌コロイド

土壌中にあって、粒径が0.001mm以下の微細な画分はコロイド(膠質物)としての性質をもっている。この土壌コロイドは単一の化合物ではなく、鉄・アルミニウムなどの水酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩、粘土鉱物に有機物が複雑に結合したものである。両性コロイドであり、pHにより荷電の性質は変わるが、通常の条件ではマイナス荷電が優勢であり、そのコロイド粒子の表面には各種の陽イオン(塩基成分など)を吸着しており、土壌の保肥力のもととなっている。

土壌水

土壌にはいろいろの形態の水が含まれている。その存在形態、機能などによって、重力水、毛管水(懸垂水)、結合水、結晶水、吸湿水、膨潤水、過剰水などと呼ばれるが、農業的には土壌に一定の圧力をかけたときに取り出せる水で分類している。多雨のあとなどで水が飽和以上に存在すると、過剰の水は重力の作用で移動できる(重力水)が、水が減少すると重力では移動できなくなり土壌の孔隙に毛管力で保持された形の水となる(毛管水、懸垂水)。この毛管水は孔隙の大きさにより保持される力が違い、その力に見合う圧力を外からかけると取り出すことができる。この圧力を水柱の高さ(cm)に換算し、その対数をとったものがpFであり、土壌水の状態を表すのに用いられる。最近ではSI単位(Pa)を用いるため、pFは国際的には廃語になっている。

土壌微生物

土壌中には多くの微生物が生息している。原生動物(アメーバなど)、無脊椎動物(センチュウなど)、藻類、カビ類、放線菌類、細菌類など多種多様であり、その数は細菌だけみても土壌1g中に100万~1億個がみいだされる。中にはまだ分離・同定されていないものも多い。土壌微生物は土壌中における物質変化に関与しており、動植物遺体の分解と腐植化、窒素の形態変化(アンモニア化成、硝酸化成、脱窒、遊離窒素の固定など)はすべて微生物のはたらきによるものである。また土壌病害微生物など有害な微生物も存在する。これらの微生物は個々に生存しているのでなく、相互に作用しあっており、そのためある菌を接種してもその増殖は土着の菌により影響されることが多い。肥よくで生産性の高い土壌では有用微生物の活性が高いばかりでなく、一般微生物をも含めた多様性が保たれていると考えられている。

土壌溶液

土壌水中には種々の養分などが溶解しておりこれを土壌溶液という。植物養分の大部分は、この溶液を経て吸収されており、土壌溶液の組成はその生育時期における養分の供給性を直接表している。土壌溶液は圃場で採取した土壌から遠心分離法、加圧膜法などで採取する方法と、圃場に埋設したポーラスカップ内を減圧にし採取する方法などがある。なお土壌を溶媒(水、酢酸緩衝液、塩化カリウム溶液など)で処理してえられる溶液は浸出液であり、土壌溶液とはいわないことに注意する。

土壌溶液診断

土壌溶液の養分、たとえば硝酸態窒素を測定して作物の肥培管理に必要な処方をつくることをいう。ポーラスカップで土壌溶液を随時採取し、養分濃度を測定して養分の過不足を診断する方法があり、土壌構造を破壊することなく継続的に養分状態を測定できる。

土地利用型農業

農業は基本的には、植物の光合成機能を利用して、太陽エネルギーを食糧などに変換するものである。光の利用のためには受光面積、ひいては土地面積が制限となる。このような基本的に土地の広がりをベースにして行う農業を土地利用型といい、通常、稲、麦類などの普通作物を対象とする。一方、ハウスで石油による加熱などの補助エネルギーを多く使う野菜栽培は施設型であり、その典型が植物工場である。畜産においても草地を利用する酪農などは土地利用型であり、舎飼いをする養豚、養鶏などは施設型である。

ドレンベッド

施設における野菜栽培での連作障害を回避するため、土壌消毒と集積塩類の洗浄用に、地面と離した栽培床(隔離床、ベッド)に、排水と殺菌用蒸気の導入のための溝(ドレン)と蒸気口をもつ成型品をいう。果菜類、葉菜類、花卉(カーネーション、キクなど)の連続栽培に利用されている。培地の水分調節が容易にできるので、低水分状態で栽培して糖度の高い高品質果菜(トマト、メロンなど)が生産できる。また蒸気消毒が容易にできるので土壌病害虫防除のための農薬を使わないですむ利点もある。

その他の用語

あ行 か行 さ行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行